“小さな高級車”幻想に挑むデミオとCX-3池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年12月05日 06時45分 公開
[池田直渡ITmedia]

 しかしながら、Bセグメントのハッチバックでどんなにスタイルを磨き、内装を豪華にしたところで、本当に上質なクルマと人々が思うかと言えばそこは難しい。コンパクトハッチバックという車型そのものが持つ「安グルマ」という概念を壊すことは簡単ではないのだ。

先進国マーケットに向けて作られたBセグメントカー、デミオ。クルマの出来は素晴らしいが…… 先進国マーケットに向けて作られたBセグメントカー、デミオ。クルマの出来は素晴らしいが……

 例えば、デミオが徹底的に高級を目指し、高級な機構を採用して、アテンザと同じ価格になっても売れるのならば、それは小さな高級車だと言えるが、現実はどう逆立ちしてもそうはならない。小さな高級車とは自動車業界が昔から囚われている幻想であり、ヴァンデンプラ・プリンセスやルノー5バカラ、ランチア・イプシロンのようにそれに果敢に挑んだクルマはあったが、機構や構造まで含めて真に高級なものを生み出したことは歴史上ない。なぜなら小さな高級車が本当に高級な価格で売られたことはないからだ。だからこそ内装を豪華にするレベルでお茶を濁さざるを得ないのだ。

 そこにこそCX-3の存在意義がある。CX-3は兄貴分であるCX-5のデザインを上手く引用している。何も知らない人が見たら、デミオよりもCX-5との関連性を連想するだろう。たとえ外皮一枚剥いた中身はまるっきりデミオであったとしてもだ。

 つまり、CX-3はCX-5のイメージを上手く利用して、デミオがどんなに厚化粧しても覆せないパブリックイメージを塗り替えることに成功しているのである。だから、小さくて高級なものを欲しがる人にとってベストマッチな商品となっている。もちろん機構そのものはBセグメントカーのそれなので、真の高級という定義に当てはまるとは思わないが、少なくともパブリックイメージ上、困難なイメージ刷新を果たしたと言える。

 身もふたもない言い方をすればイメージは実のところ見栄なのかもしれないが、自動車という商品はその見栄をぬぐい去ることがとても難しい商品である。仮に筆者が「国産車でコストパフォーマンスに最も優れ、実用的で、資産価値の償却が最も小さいクルマはプロボックスだ」と言ったとして、どれだけの人が「なるほど」とプロボックスを買うだろうか?

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