大ヒット「FF15」を完成させた2つのルール田畑端ディレクターインタビュー(2/3 ページ)

» 2016年12月22日 11時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

「他人の仕事にブレーキをかけない」「ヒエラルキーをリセット」

――FF15の制作チームを、どういう形で変えたのでしょうか。

田畑: FF15の制作スタッフは最初は100人以下でしたが、プロジェクトが進むにつれて社内外合わせて数百人という大きなチームになっていた。個々のタスクというよりは、意思決定をする上での固有の文化や、大事にしなきゃいけないものの傾向をリセットする必要がありました。

 大きく変えた点は2つです。1つ目は「他人の仕事にブレーキをかけないこと」。長くプロジェクトをやっていると、会議をしてできたものにダメ出しをするだけで、仕事をしたつもりになってしまうことがある。良かれと思ってしたアドバイスが相手にとっては負担になったり、個人的な感情が判断に混じったりも起こりうる。「良いか悪いかの判断は僕がする」と、物事の決まり方をシンプルにして、1人1人のタスクを明確にしていきました。

 2つ目は「ヒエラルキーをリセットすること」。僕はずっと、チームにおいて「同じメンバーが主導していくこと」に違和感があったんです。開発には、ビジョンを作っていく立ち上げ初期、プロトタイプを生み出していく序盤、量産していく中盤、品質を引き上げていく終盤がある。

 その段階に合わせて、チームは柔軟に変化しなければいけないのに、開発規模が大きければ大きいほど固定化してしまう。スタッフにも「この人は立ち上げは向いているけど、中盤は苦手」「序盤はうまくできないけど、終盤にはいい仕事をする」とさまざまな能力の違いがある。それなのに、一度リーダーになるとずっとリーダーという状態にあった。それを一度リセットしました。

――リセットすることで、チーム内での不満はありませんでしたか? 「俺はこのチームのリーダーだ」とアイデンティティーを感じている人もいたのでは。

田畑: 人間なので、感情がついていかないことはあると思います。ただ、そういうメンバーに対しては「これは理屈の話だから。右脳をシャットダウンして、左脳で考えてほしい」と伝えていました。やり方や組織を変えるのは、ゴールに向かうための逆算。「今のやり方の延長線にできるものは、目標に達している?」と聞いていきました。また、実際新しいやり方を実行していくと、前よりもいい結果が出て、結果として自分のキャリアにとってプラスになるんです。だからだんだんと分かってもらえましたね。

本作のモチーフの1つは「旅」。制作の現場の旅路も激動だった

――自身の仕事の範囲が明確で、柔軟な形をとる組織は、日本企業よりも海外企業に多い印象があります。どこか参考にした企業はありますか?

田畑: そのままきれいに習ったわけではないですが、これまで見たり聞いたりして「強い組織だな、入社したい」と思った企業は参考にしてますね(笑)。今ぱっと出てくるのは、シアトルのバルブ・コーポレーション。「Steam」というPCゲームのプラットフォームを作っている会社です。バルブは、組織の形が不定で、目的に合わせてどんどん変わっていくんです。

――組織の仕組みを作ることと、その組織を指揮していくこと、ディレクターとしてどちらの方にエネルギーを使ったと思っていますか?

田畑: それはやはり、組織を作る方ですね。時間が経てば経つほど、選択肢は絞られる。でも最初だと、たくさんある選択肢の中から「絶対に右に行くぞ!」と宣言しなくてはいけない。左派は「ちょっと田畑さんいいですか? 絶対右はダメですよ、やめたほうがいい」と言ってくる(笑)。でも右を選び続けると、今度は判断基準が「右の中でできることで、何を優先していくか」に変わっていく。中盤以降は、開発そのものよりは、世界同時発売などの方面に力を割くようになっていました。

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