それでいいのかホンダ!?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2016年12月26日 06時45分 公開
[池田直渡ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

3つのシナリオ

 では、どんな戦略があるのだろうか? 筆者は3つのシナリオがあると思う。マツダとトヨタのコモンアーキテクチャー戦略をよく研究し、ホンダの新しいアーキテクチャー設計に早急に入ること。これが一番順当なプランだ。

 次に、欧州マーケットを重点目標から外し、英国・スウィンドン工場を閉鎖すること。実際スウィンドンの第2工場は2001年に竣工したにもかかわらず休止中であり、当面生産能力に見合うレベルで稼働させるのは不可能に近い。言葉を選ばなければ不良債権化しており、いずれにせよ余剰生産力を調整しなくてはならない可能性が高い。

 スウィンドン工場には、英国のEU離脱問題もある。もし英国が最終的にEU離脱となれば、域内経済特典としての非課税輸出ができなくなり、他国からの輸入と何も変わらなくなる。であれば、労働単価の安いインドやタイで生産した方がはるかに合理的なはずである。ただし、スウィンドン工場は現時点で欧州唯一の四輪車生産拠点であり、スウィンドンの撤退は四輪車の欧州生産からの撤退に直結する。ただでさえEU離脱で微妙な英国政府は、自動車メーカーの工場撤退に頑強に抵抗するだろう。

 自動車工場は、通常どこかのメーカーが撤退したら他メーカーが譲り受ける。だから雇用がまるっきりなくなるわけではないし、買収後、新規の投資が行われるなどのメリットも考えられるのだが、EU離脱で税優遇がなくなる英国でわざわざ新規投資したいメーカーがあるとも思えない。

 この案の眼目は、生産設備の能力に合わせて商品企画するという現在の無茶な方向を、もっと現実的な商品企画と販売力に合わせた生産規模に変えるというところにある。問題はスウィンドンの閉鎖だけでその調整が可能かどうかであるが、少なくとも補正の方向としては間違っていないはずだ。

国内ではすっかり見掛ける機会が減ったアコードだが、北米では車名別販売台数で5位を獲得する主要車種だ 国内ではすっかり見掛ける機会が減ったアコードだが、北米では車名別販売台数で5位を獲得する主要車種だ

 3つ目は、トヨタ・アライアンスへの参加ということになるだろう。ホンダがグローバル販売台数を伸ばしていきたいのだとすれば、伸び代があるのは中国の非富裕層、インド、ASEANというアジアマーケットである。それらの新興国で求められるのは、経済性が高いことを最低条件に、それ以上の魅力のある小型車である。向こう10年を見るとそれは小型ガソリンエンジンか、それにマイルドハイブリッドを組み合わせたものになると考えるのが妥当だろう。ホンダは開発リソースをここに充てん投下すべきである。

 残る部分、特に北米の規制強化でマストになった燃料電池や電気自動車、先進国での実用的なエコカーであるハイブリッドなどの開発はもうアライアンスに任せてしまう時期ではないか? こうした技術は大きなコストがかかるわりに、利益を出すまでに時間がかかる。ホンダはそういうものに単独で挑む規模にないことを知って、オールジャパン・プロジェクトととらえた方が良いのではないか? 同じようなものをみんなで作って争ってもあまり意味はないし、北米のゼロエミッション・ヴィークル規制はさすがに理想主義が過ぎてひっくり返る可能性がある。そういう博打性のある投資に耐える体力は今のホンダにはないだろう。

 さて、中国の新工場は果たして大丈夫なのか? 51%の議決権を中国側に握られた中国法人にどんどん投資して本当に大丈夫なのか? 共産党の都合次第で法律が変わる国であることをしっかり考えておくべきである。それはカントリーリスクである。何も中国だけではない。前述のように英国にもカントリーリスクがある。平穏を前提の投資でいいのかと筆者は言いたいだけである。

 そしてそもそも本当に最初に手を付けるべきは生産設備なのか? 恐らく今、最も痛切にコモンアーキテクチャーの導入を求めなくてはならないのはホンダだと筆者は思うのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.