それでいいのかホンダ!?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2016年12月26日 06時45分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタやマツダとの違い

 そうして個別の戦局を見ながら対症療法的に対応していけば、開発すべき商品がどんどん増えていくのだ。エリアを個別に見ていけば、どこも一筋縄で割り切れない気持ちは分かるが、見切るべきところを見切って選択と集中を成し遂げていけるかどうかがホンダの未来を決めるだろう。

 他社の例を見てみよう。何も選択と集中はエリアだけに限らない。開発リソースの選択と集中という方法もある。マツダとトヨタは、それぞれSKYACTIVとTNGAというコモンアーキテクチャー作戦を打ち出して、開発リソースの選択と集中を行っている。コンポーネント化されたパーツ群の順列組み合わせで商品群を構築することを前提に、それらすべてを貫く汎用部分に開発リソースを重点投入する。そこに人とお金のリソースを厚く投入しつつ、実は製品軸で見れば割り勘にする車種が増えるため、一製品当たりのリソース節約になる仕組みである。

 コストダウンを図りつつ、より高級な仕組みを採用し、潤沢(じゅんたく)なリソースによって商品力を底上げしながら、コストダウンを同時に推し進める。利益率の確保をトレードオフにしない戦術である。正直なところ「そんなにうまくいくのかよ」と思わないでもなかったが、現実としてマツダとトヨタはそれに成功しつつある。

 ところが、ホンダは大量の製品群を全部ゼロからスクラッチで作る方法を改める気配がない。個別に設計されたエンジンは永遠に個別に改良開発を続けなくてはならない。そういう意味で永遠のリソース食いだが、コモンアーキテクチャー化されていれば、モジュール本体を進歩させることで全製品のボトムアップが可能になる。例えて言えば年賀状の宛先だ。エクセルに打ち込むのが面倒で毎年手書きを続けているような状態になっている。一度大変な思いをしても、以後は圧倒的に楽になる。企業の成長速度を決める重要な要因である設計リソースを永遠に縛り付けておくのは愚かな選択に思える。

ホンダがタイで生産する新興国専用車「ブリオ」。現在生産と販売だけでなく、新興国のニーズをもっと身近に感じるために設計の現地化も進行中である ホンダがタイで生産する新興国専用車「ブリオ」。現在生産と販売だけでなく、新興国のニーズをもっと身近に感じるために設計の現地化も進行中である

 そして、販売台数を増やしたければ、どうしても新型車を投入しなくてはならない。例えば、今売れているヴェゼルはフィットのシャシーを流用しているが、なぜだがホンダはそこでシャシーが「ほとんど作り直しレベルである」と自慢する。

 「あり合わせの素材で作ったのではない」という点を強調したいのだろうが、そうやって車種ごとに細切れにされ配給された限定的なリソースで厳しい開発を行うくらいなら、フィットのシャシーをコモンアーキテクチャーとして、人も資金も重点投入し、それを他車種に水平展開していった方が良いものが早くできる。トヨタはプリウスをコモンアーキテクチャー化したからこそ、リヤサスペンションに旧来はコスト的に許容できなかったダブルウィッシュボーンを投入できたのだ。ヴェゼルが成功した以上、当然アコードベースのSUVも出てくるだろうが、これも本来アコードの開発に織り込んであれば、より良い製品が安く早くリリースできるはずである。

 ところがホンダはそれをやらない。しかもコモンアーキテクチャー化が進んでいる競合他社と戦う以上、同等のスピードで開発を進めなくてはならない。ちょうどコンピューターシミュレーションによる設計が当たり前になった結果、とにかく作れば良いというのであれば時間短縮は可能なのだが、そこに問題が潜んでいる。そうやって従来方式で培われた検証期間をショートカットしてリリースするからリコールが増える。リコールが増えれば、仕事が手戻りしてまた開発リソースが逼迫(ひっぱく)する。そして新型車の投入が遅れ、無理に急ぐことでリコールが発生しやすい状況を再度生み出すという悪循環である。そうして、せっかく虎の子をはたいて準備した生産設備の稼働率が落ちる。

 ホンダのここ数年を見ていると、内部で起きていることはそういうことなのではないかと筆者は思っている。つまり、「どんどん新型車を作れ!」「早く安く作れ!」ということを現場にただ押しつけている。本来「どんどん新型車を安く早く作れる仕組み作り」をしていかなければならないのは経営側であって設計現場ではないのだ。この状況で生産キャパシティを上げれば、また生産設備の稼働率を上げるための新型車開発のスパイラルに入っていく可能性が高い。だから順番として、生産設備の拡充よりも、モノ作りの合理化を先に進めなくてはならないはずだ。

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