――若い世代の読者も多かったと聞いていますが、受け止め方は世代間でどのように異なったのでしょうか。
欠端: 若い人は、本書をエンタメとして読んでくれたようです。いまの時代は、隠し子がいたり、失言したりすると、すぐさま叩かれて辞職に追い込まれます。“ゲス不倫”などといわれてね。そんな中で、不倫したり隠し子がいたりする中、総理大臣になってしまった田中角栄という男は、彼らにとっては衝撃ですよね。
当時の世論には「不倫するくらいの器量がないと、大臣は務まらない」という寛大さもありました。若い世代は「そんな時代があったのか! こういう考え方も悪くないかもしれないな」と受け止めてくれているようです。
――『田中角栄という生き方』に続いて、欠端さんが手掛けられた名言集『田中角栄 100の言葉』も74万部を突破と大ヒットを記録しています。ベストセラーを生むためのコツがあるのですか?
欠端: いえ、全くありません。日々の真摯に仕事に取り組んできた結果ではないでしょうか。編集者を20年以上やってきましたが、良い結果が出たときもあれば、うまくいかない時もありました。今回はたまたま良い方向に転がっただけです。「こうすれば売れる」という方程式のようなものには、いまだに辿りついていません。
私の着眼点や編集の仕方が良かったというよりも、田中角栄という人間が持っている力、すなわち「素材の良さ」が大きかったと考えています。
ただ、自信を持って言えるのは、私が手掛けた角栄本は、ブームに乗ったわけではない、“オリジナル”の出版物だということ。私が日々の取材で得た情報をもとにし、編集者人生で培った人脈に助けられながら、世の中に伝えたい事を本にしたところ、運よく良い結果が出たというふうに捉えています。
――欠端さんは、いまの「角栄本ブーム」をどう捉えていますか?
欠端: 私が『田中角栄という生き方』を出したあと、類似する出版物が計200点ほど出ているようです。中には、私の本とコンセプトがほぼ同じものもあると聞きます。ブームに乗って類似した企画を出したほうがヒットにつながりやすく、利益を生みやすいという構図は理解できますが、出版業界は売れた本の“2匹目のドジョウ”を狙う傾向が強すぎるのではないでしょうか。
私は現在の出版業界を取り巻く風潮とは距離を置き、「独自性のある本をつくる」「人のまねをしない」という精神を忘れず、オリジナルの書籍を世に出すことを続けていきたいと思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング