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伊豆大島が「ゴジラ」に頼る、残念な思考スピン経済の歩き方(4/7 ページ)

» 2017年01月01日 13時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

伊豆大島の「おらが村自慢」気質

 「観光振興」や「町おこし」なんてそんなもんじゃないの、と思うかもしれないが、冷静に考えると、これはかなり「異常」な考え方である。どんな商売でも「客」という相手がいなくては成立しないので、まずは「客」のニーズを調べる。ビジネスの世界でも、市場調査や顧客の声を吸い上げるのは基本中の基本だ。

 しかし、どういうわけか日本で「観光の産業化」を目指していく際には、そういうプロセスは踏まない。「客」がどう思っているかなど関係なく、観光業をしている側の人間が「観光してもらいたいポイント」を押し出す。「ウチの村はこんなにいいところなんですよ」という「おらが村自慢」の域を脱していないのだ。

 実際に、公益財団法人東京市町村自治調査会の「島しょ地域における観光ニーズに関する現況調査」で事業者と来島者へアンケートを行ったところ、伊豆大島の「おらが村自慢」気質が見事に浮かび上がっている。

 例えば、伊豆大島のイメージとして、島の観光事業者の64.8%が「ハイキングや登山に最適」だと思っているが、インターネット調査をしたところ、そういうイメージを抱いている人は2.8%しかいなかった。

 また、来島者に求める観光メニューを尋ねたところ、「漁業体験」などを欲する比率が高かったが、島の事業者で必要だと思っている人は少なかった。代わりに、事業者は「島全体の観光地や歴史等の案内ができるガイド」が絶対に必要だと思っている人が多くいたが、旅行者はそれほど必要だと思っていなかった。

 もちろん、伊豆大島の名誉のために断っておくと、このように「もてなす側」と「もてなされる側」の間に悲劇的なニーズのすれ違いがあることを踏まえて、それを埋めるための地道な努力も進めている。

 例えば、来島者の多くが「観光地全体をめぐる宝探しイベント」を求めているということで近年は宝探しイベントを積極的に行っている。チームでコンパスと地図を用いて宝探しをするという世界的に人気なアクティビティ「ロゲイニング」も2016年で4回目を迎えている。

観光に関する認識のギャップ(出典:東京市町村自治調査会)

 こういう努力をしてもなかなか観光客数がドカンと跳ね上がらないので、藁(わら)をもすがる思いで、映画『シン・ゴジラ』のヒットにあやかったということなのだろう。

 ただ、個人的には人気者にあやかろうというのなら、ゴジラより遥かに伊豆大島と縁の深い「あのキャラ」にたよればいいのにと思ってしまう。

 呪いのビデオテープでお馴染みの映画『リング』の貞子である。

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