だからトランプに負けてしまう トヨタの急所スピン経済の歩き方(1/5 ページ)

» 2017年01月10日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。


 トランプがトヨタにかみついたことが話題となっている。

 ご存じのように、Twitterでトヨタがメキシコに新工場を建設することを「ありえない」とバッサリ斬り捨て、計画を進めるならバカ高い関税をかけると「恫喝」してきたのだ。

 日本人的には「相変わらずムチャクチャだな」という印象を抱く「暴言」だが、トランプ氏的には「筋」の通った発言だ。

 トランプ氏は以前から米国の企業がメキシコに生産拠点をつくることを「恥知らずだ」と批判してきた。その槍玉にあがっていた米自動車大手フォードが1月3日にメキシコに予定していた新工場の建設を撤回。勢いに乗って、メキシコでシボレークルーズをつくるGMに高い関税をかけると宣言していた。

 トヨタの豊田章男社長がメキシコ工場建設について現時点で変更がないとしながらも、『トランプ米国次期大統領の政策や決断など「いろいろなものを見ながら判断していきたい」と述べ』(ロイター1月5日)たのは、その翌々日だ。

 流れ的にも「牽制」して当然。むしろ、トヨタだけお目こぼしにするほうがよほどの異常事態といえよう。

 そもそも、トランプ政策の一丁目一番地「メキシコとの国境に壁をつくる」のは違法移民が犯罪を起こす云々は後付けで、「移民に奪われた雇用を取り戻す」のが本質だ。公約実現のために是が非でも「新たな雇用」が欲しいトランプ氏にとって、「メキシコに工場をつくっても米国の雇用は減らない」という北米トヨタの声明は馬の耳に念仏なのだ。

トヨタのメキシコ工場建設はどうなるのか(出典:トヨタ自動車)
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