川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
対局中の将棋ソフトの使用をめぐる問題で、日本将棋連盟の谷川浩司会長が辞任する事態となった。結果として、三浦九段に対する出場停止処分については誤った判断となってしまったが、一連の騒ぎや批判は、将棋や将棋界に関するいくつかの誤解から生じている面がある。
まず、将棋ソフトが棋士の実力を上回ったというのは正確な理解とは言えない。ソフトはそもそもプロ棋士が残した棋譜を大量にコンピュータに記憶させ、そのデータから最適手と思われる手を選んでくるプログラムをたくさんの人が書いて作られたもので、さらに棋士との対戦に当たっては数十台〜数百台のマシンをつないで動かし、その稼働状況の監視などにも人を配置する。
例えれば、たくさんの人間が協力して自転車や自動車を開発し、優れた運転手を用意した上で、ボルトとどちらが速いかを競うのと同じで、「コンピュータという道具を駆使した多くの人間」が「素の1人の人間」に挑んで、高勝率をあげているというだけのことだ。
ボルトが自動車に走り負けたって、それがどうした? という話であって、ボルトの速さが否定されるわけでもないし、ボルトの価値が下がるわけでもない。同様に、ソフトに負けたって棋士の強さや価値は何も変わらない。それどころか、それだけ多くの人間が道具を持って戦わなければかなわないほど強いわけで、棋士のすごさ、才能ある人間の脳のすごみがクローズアップされるほうがむしろ自然だ。将棋ソフトの制作者たちが、それをもっとも実感しているだろう。
そして、将棋ファンはその“すごい人間技”を期待しているのであって、勝負の結果だけ、単なる強さだけを見ているのではない。プロ棋士対コンピュータというのは、(古い話になるが)阪急ブレーブスの盗塁王・福本豊さんが競走馬と勝負するイベントがあったが、あのような見せ物にすぎないのである。
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