要するに、このままでは制度が機能しなくなる可能性もあるわけだが、これに対して政府はどのような対策を考えているのだろうか。少々暗い話になってしまうが、現時点においては給付を削減する方向性で議論が進められている。
例えば、特別養護老人ホーム(特養)については、以前は要介護2以下でも入居することが可能だったが、2015年4月以降は、原則として要介護3以上でなければ入居は認められなくなった(特例あり)。
要介護3というのは、中度の介護を要する状態と定義されているが、具体的には身の回りのことが全て自力ではできなくなる状態のことを指す。介護を経験したことのある人ならよく分かると思うが、要介護3というのは家族の実感としてはかなり重度という印象を持つレベルである。
平均的な経済力の人にとって特養は、少ない自己負担で生涯、介護が受けられる唯一の施設と言ってよい。入居基準が要介護3以上ということになると、それまではヘルパーなどの支援を受けながら家族が面倒を見るということになる。家族の負担は相当に重くなると考えた方がよいだろう。
こうした実務上の措置だけでなく、高齢者の定義そのものを見直そうという動きもある。先日、老年医学の学会で注目すべき発表があった。現在は65歳以上と定義されている「高齢者」について、75歳以上にすべきという提言が行われたのである。
提言では、65歳以上という高齢者の定義に医学的な根拠はなく、高齢者の定義が現状に合わなくなっていると指摘。75〜89歳を高齢者に、90歳以上を超高齢者と定義すべきと結論付けた。これまで高齢者として区分されていた65〜74歳の人は準高齢者となり従来の高齢者の区分からは外れることになる。
この提言はあくまで医学的なものだが、それだけにとどまるものではない。今回の提言がいずれ、社会保障制度の見直しの理論的な根拠となることはほぼ間違いない。高齢者の定義が変われば当然、介護保険の適用基準も変わってくることになる。
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