なぜ日本のおじさんは怒ると「責任者を呼べ!」と騒ぐのかスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2017年03月07日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

脊髄反射的に刷り込まれたワードを口走る

 神戸連続児童殺傷事件をマスコミが連日のように大きく報道した後、少年少女の凶悪犯罪が連鎖したことからも分かるように、社会的にインパクトの大きい事件は「模倣犯」を生む。

 例えば、1993年2月には、解雇された54歳のタクシー運転手が会社に押しかけて、『ガソリン入りのポリ容器を持って来て、「責任者を出せ」などと要求、応対した業務部次長(64)と自分の体に突然ガソリンをかけてライターで火を付けた』(日本経済新聞 1993年2月24日)という。

 このタクシー運転手と同様の症状が、今のおじさんたちにあらわれている可能性はないだろうか。

 20〜30代という社会人スタート時に、あまりに衝撃的な「責任者を呼べ!」をたて続けに見させられたトラウマで、そこから30年近く経っても、自分が窮地に立たされて頭がカーッと真っ白になってしまうと、脊髄反射的に刷り込まれたワードを口走ってしまう。そう考えると、50〜60代のおじさんたちがなにかとつけて「責任者を呼べ!」と騒ぐのも納得ではないか。

 そんな与太話には付き合いきれん、という声が聞こえてきそうだが、この「刷り込み理論」はそれなりの根拠がある。80〜90年代の「責任者を呼べ!」事件続発後、この恫喝スタイルを模倣する一般市民が急増しているからだ。

 90年代後半になると、総会屋やブラックジャーナリズムを取り締まる法整備がなされたことで、「社長を出せ!」と迫る「プロ」たちが急速に消えていく。そこで入れ替わるように台頭してきたのが、いわゆる「クレーマー」だ。

 2003年、カメラ会社の消費者相談室に20年以上勤務した川田茂雄氏の『社長を出せ!』(宝島社)という著書が社会的に注目を浴びたことからも分かるように、このあたりになると、「オレ様を大切に扱わないとはどういうことだ」というヒステリックな怒りからくる骨髄反射的な「責任者を呼べ!」が登場する。

 例えば、2004年2月、米国でBSE感染牛が発見されたことをうけて、牛丼販売を中止していた「吉野家」でキレた28歳の無職男性など分かりやすい。『女性店員に「牛丼はお出ししておりません」と断られると「責任者を出せ」と騒ぎ、近くにいた男性店員の胸ぐらをつかみエプロンを破ったほか、カウンターに置いてあった紙ナプキンケースを投げ付けた』(日本経済新聞 2004年2月19日)という行動は、禁煙スペースの喫煙を注意されて逆ギレするのと同様に、親に叱られた子どもがかんしゃくを起こすような「幼稚性」を感じる。

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