3月16日、ダイハツは記者会見を行い、トヨタの完全子会社化以降の世界戦略と、ダイハツ・ブランドの再定義について、公式に発表した。
まずはグローバルマーケットとトヨタ・アライアンスについて簡単におさらいしよう。世界の自動車販売は向こう20年で1.5倍の台数に膨れあがる可能性が高い。そのマーケットは中国の非富裕層と、インド、ASEANが中心だ。結果的にこれから売れるのは、A、Bセグメントの安価で実用的な小型車である。
そうしたグローバルマーケットに鑑み、トヨタは現在巨大なアライアンスを構築中だ。トヨタ、ダイハツ、スバル、マツダ、スズキの総計は1540万台という巨大なものになる。これまでの1000万台ラインでのフォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモータース(GM)との世界一を巡る攻防ラインを大幅に突き抜けた新しい領域での戦いだ。
アライアンスと書かざるを得ないのは、各社のスタンスがそれぞれ違うからだ。ダイハツは昨年8月からトヨタの完全子会社となっている。スバルは一部資本提携で、トヨタのガバナンスがある程度効く状態。マツダとスズキに関しては、詳細は発表されていないが、現状ではそれぞれ独立した企業体維持を前提とした同盟に近い形と目されている。徳川幕府で言えば、ダイハツは親藩、スバルは譜代、マツダとスズキは外様ということになるのだろう。それは序列を示しているわけでなく、トヨタとの距離感の取り方がそれぞれ違うことを意味しており、当然トヨタの意思が経営に反映する濃度はそれぞれ違ってくるはずだ。
こうした状況下で、現時点でハッキリしたプランが明示したのはトヨタとダイハツだけだ。トヨタは既に分社化による意思決定のスピードアップと、TNGA(Toyota New Global Architecture)による経営強靱化をハッキリ打ち出し、製品レベルで言えば2020年までにトヨタの標ぼうする「もっと良いクルマ」、つまりTNGA戦略下での新時代商品を新車の50%にまで引き上げると発表している。その速度感の中で、完全子会社となったダイハツは同じ速さでの変革が求められることになる。
現在のダイハツの状況をざっくり見てみよう。まずは国内からだ。少子高齢化による需要縮小を背景に、低賃金化も相まって国内自動車販売が落ち込む中、一種の避難先として好調だった軽自動車マーケットだったが、軽自動車税増税で一転。以来好調の反動で、国内の軽自動車マーケットは底冷え状態が続いており、今後も流れは増税方向と見られる以上、中長期的には売り上げを極端に軽自動車に依存する体質は改善が必要だ。強化すべきは軽の直上に位置するリッターカークラスの実用車であり、平たく言ってしまえば庶民の足である。
例えば、ヴィッツをトヨタがどう位置付けているかと言えば、欧州マーケットでVW・ポロと戦うクルマだと考えている。それは先進国向けの高付加価値小型車であり、プレミアム・コンパクトということになる。プレミアムの定義は難しいが、ここでは単純に高価格帯コンパクトカーとしておこう。現状トヨタはこのマーケットではまったく歯が立たない。現在大いにネジを巻いて、打倒VWのためにTNGA世代のコンパクトカーを開発中である。
「ダイハツ・トールのようなクルマは我々には作れない。我々はどうしてもVWと戦うマーケットを見てしまう。軽の直上に位置する庶民のための実直な道具というところにずっとフォーカスし続けているところが、ダイハツの強みだと思います」。トヨタコンパクトカーカンパニーの幹部はダイハツのクルマ作りをそう評した。
つまり、国内マーケットにおいてダイハツがやらなくてはならないことは、縮小する軽自動車マーケットでの椅子取りゲームを戦いつつ、他方で、軽から流出する人たちのための実用的な小型車を鋭意開発し、庶民の生活を豊かにするクルマを作っていくことである。
グローバルではどうだろう。ダイハツがトヨタから最も高く評価されたことの1つはASEAN市場での存在感だろう。マレーシアとインドネシアでリードを築いたダイハツは、ASEANマーケットでトップを走っている。もちろん冒頭に書いたように、中国の非富裕層とインドというマーケットへの期待は、ダイハツはもちろんのことトヨタも強く抱いているはずだ。
その戦略はどうなるのか? しかもトヨタアライアンスの中には、インドの覇者・スズキがいる。誰もがそのすみ分けがどうなるのか気になるところだと思う。結論から言えば、ダイハツはまだトヨタが何を望んでいるか探っている。ただし、インドや中国マーケットで躍進したいのなら、まずは激戦になりつつあるASEANで、せっかく築いた有利な橋頭堡をさらに地固めすることだ。多方面作戦は戦力の分散投入にしかならず、最悪の場合、ASEANまで失いかねない。だからASEAN重視は従来通り揺らがない。
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