さて、こうした状況の中で発表されたダイハツのリブランディングの中身を見てみよう。ダイハツはリブランディングに際して、3つの要素を発表した。グループスローガンとブランドビジョンとブランドステートメントだ。若干ポエティックな文章も含むが故に、かいつまむと消えてしまうニュアンスもあるので、全文を引用する。
グループスローガン
Light you up
らしく、ともに、軽やかに
ブランドビジョン
ダイハツグループは、世界中の一人ひとりが自分らしく、軽やかに輝くモビリティライフを広げます。
ブランドステートメント
Light、それは光。今まで光が当たってこなかった細部を照らすこと。他の誰でもないあなたに「これは自分のためにある」と言ってもらえる、きめ細やかな商品・サービスの追求。
Light、それは軽やかさ。自分にとって本当に必要なものだけを選ぶこれからの時代の生き方に合った、環境と家計への負担がライトなモビリティライフの提案。
光を当てる。軽くする。2つのLightに、ダイハツの未来はある。この世界の一人ひとりに“Light”な日常を届ける。そこにダイハツの“ならでは”がある。
ダイハツは一人ひとりの「特別と最適」を生むモビリティライフ・プランナーになる。すべての人が自分の色、自分の輝きを見つけ出す世界を目指しながら。
これらに併せて、中長期戦略シナリオ「D-Challenge 2025」が策定発表された。
期間として定義されたのは2017年から2025年まで。その間にダイハツは自己改革を行う。ダイハツにとって、本丸はこちらだろう。中長期計画のためには自己評価から始めなくてはならない。だからリブランディングが必要だったのだと筆者は考えている。
はっきり書いてしまうと少し気の毒だが、ダイハツはブランド力が弱い。ダイハツとは何なのか? あるいはダイハツのクルマとはどんなクルマなのか? と言う問いを受けて、説明できる人はほとんどいない。これがスバルやマツダだったら頼まなくても2時間くらい説明を始めるファンがいる。数は少ないかもしれないがスズキにもいるだろう。だが、ダイハツはそうなっていない。
ダイハツは自らの内側を深く観察して、その原点を1957年のミゼットに求めた。ダイハツの三井正則社長は会見の中で「お客さまに寄り添う、つまりユーザーオリエンテッドな姿勢は、1957年のミゼットから続くダイハツならではの原点であります。この原点を忘れることなく、1ミリ、1グラム、1円にこだわり抜き、今後も軽および軽直上のコンパクトカーを含めたスモールカー市場にダイハツらしい商品を供給し続けてまいります」とダイハツの役割を定義した。
ミゼットは第二世代のオート三輪だ。戦後の復興期に輸送を支えたオート三輪が、経済発展に伴って四輪トラックへとシフトしていった後、それまで経済的理由でクルマを導入できなかった個人商店に、自転車や二輪車に代わる配達・配送手段として安価に導入できる道具となるべく開発された。それは今考えると、ASEAN市場の一部と相似であり、もしかしたら一周まわって、現在、低賃金化著しい日本にも合致するのかもしれない。
単純に言えば、クルマの利便性をこれまでクルマが持てなかった人に提供しようということであり、庶民生活を豊かにするということでもある。他社との比較で観念的に言えば、スバルやマツダはクルマというハードウェアへの求心的なブランディングであるのに対して、ダイハツのそれは遠心的である。もっと端的に言えば、「クルマって本当に良いですね」というスバルやマツダに対して「クルマがあるって本当に便利ですね」というスタンスになる。ある意味でクルマにステータス性を求めない。非常に2010年代的な考え方であり、それはプレミアムにばかり注目しがちな現在において、アンチ・プレミアムな思想だとも取れる。
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