日産の国内戦略を刺激したノートe-POWER池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年04月03日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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手持ちの部品だけで成立させたヒット商品

 ただし、そういう企画があってゼロからスタートしたわけではない。日産社内では既に2007年ごろから、エンジニアの自称「部活動」によって、ノートのボディ/エンジンとリーフのモーターを組み合わせた非公式な先行開発車両を制作中だったのである。それに商品企画が目を付けた。2014年、部活動は急遽正規プロジェクトに格上げされた。たった2年で発売に漕ぎ着けることができたのは、この部活動があったからだ。

 一番大変だったのは、エンジンとモーターの搭載だ。ノートはHR12型エンジンが搭載されることが前提で設計されている。そこにさらにモーターとインバーターを入れなくてはならない。どれかが新規設計ならともかく、エンジンもモーターもシャシーも全部ありものを使わざるを得ない。リーフにはモーターのみ、ノートにはエンジンのみが搭載される。それを前提に全てのサイズが決まっているものを両方とも1つのエンジンコンパートメントに押し込むのである。それは大変な作業だったことが容易に想像できる。

 こうしてデビューしたノートe-POWERがヒットした原因は何だろう? 筆者は4つの理由があると思う。1つ目はトヨタハイブリッドの一人勝ちに反感を感じる層がいたのだと思う。皆と同じクルマは嫌だという気分はかなり購入を左右する。

近年のこのクラスにはない広いリヤスペースを備えたインテリア 近年のこのクラスにはない広いリヤスペースを備えたインテリア

 2つ目は日産ファンが積極的に選びたいクルマが長らく枯渇していたこともあるだろう。そうした人たちが、これならと飛びついたと思われる。そして3つ目はノートそのもののポテンシャルが高かったことだ。過去5年を振り返ってみると、プリウス、アクア、フィットというハイブリッド勢が、三つ巴のトップ争いをしている間、リーフはずっと4番手の常連だった。現代のBセグメントカーとしては異例に広いリヤスペースが他にはない魅力になっていたのだと思う。最後に、日産が重視した気持ちの良い動力性能が挙げられるだろう。

 実際に乗ってみると、加速も減速もアクセルペダルで行える「ワンペダルドライブ」には最初戸惑う。ちょっとしたアクセルオフでグッと減速してしまい。ギクシャクする。特に滑空感が強いトヨタハイブリッドを基準に考えると、もう違う乗り物だと思うくらい減速する。しかしこれが慣れてくるとなかなか使い勝手が良い。日産の実験によれば、ブレーキへの踏み替え回数を約7割削減できるという。前走車との速度差は常にクルマがモニタリングしており、0.15Gの減速では止まりきれない場合は、ブザーと光で知らせる仕組みになっている。そのときは素直にペダルを踏み換えるというわけだ。

 こうしたワンペダルドライブは運転の楽しさに明らかにつながっており、ハンドルを切りながら回生ブレーキで前輪への荷重を高めて、アンダーステアを消すことができる。それは別にタイヤを鳴らすような運転をしなくても、曲がり角をゆっくり曲がるときでもクルマの挙動をしっかり制御できる。

 しかし、そうやってアクセルオフで前輪荷重が増える特性だと、例えば初心者が意図せずに曲がり過ぎることが起きないかと思って念入りにチェックしてみたが、不思議なことに前輪荷重による軌跡の巻き込みは極めて穏やかである。かと言って荷重を乗せなくてもあまり外にはらんでいく気配は見せない。実はこの特性e-POWERモデルでないノートでも同じなので、奇しくもこのパワートレインとシャシーの性格がマッチしていると言える。

 日産によれば、家族4人でいろいろに使えるクルマを目指しており、夫婦が二人で、あるいは免許を取った息子が、家族揃って、という風に、老若男女全てが便利で快適に使えるパッケージがノートにはあり、だからこそe-POWERをそういう普通の人達に感じてもらうためにノートを選んだという。

 デビューは2012年。モデルチェンジがあってもおかしくないころ合いだと言うことを割り引くとノートe-POWERは悪くない。これがブランニューで2017年に出たクルマだと言われたら、ドライビングポジションやリヤシートの出来、ボディ剛性など指摘する部分はある。つまり最新世代のクルマと比べると見劣りする部分もあるが、元々の素養の高さと室内空間が広いという他に無い個性がそれを補っており、そこに新しい推進装置を用意したことで上手くプラスに転じている。

 この記事の本題、つまりビジネスニュースとして日産のノートe-POWERをどう見るかと言えば、すっかり固着して動かなかった日産の国内戦略を、短期間の開発かつ、ありものを組み合わせて安価に、そして大いに刺激したと言う意味で大きな存在感を持つ1台だと言えるだろう。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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