「クラウド」から「リアル」へ ランサーズの新戦略単体事業からプラットフォームへ

» 2017年04月19日 17時01分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 ランサーズは4月19日、新たなサービスの開始と新会社の立ち上げを発表した。これまでクラウドソーシングサービスの単体事業で業績を伸ばしてきたランサーズが、「オープン・タレント・プラットフォーム」構想のもと、3つの新事業を展開する。

ランサーズが3つの新事業を展開

 ランサーズは2008年創業。クラウドソーシングサービス「Lancers」がメイン事業で、これまで23万社に利用され、仕事依頼は累計145万件に上るという。売上高は13年度の3億円から、16年度は21億円へと大幅に成長し、かつ通年で数千万円の黒字に転換した。現在1000万人を超え、なおも増加が見込まれる日本のフリーランス人口を背景に、事業プラットフォームの拡大を目指す。

ランサーズの売上高

3つの新事業

 新事業の1つ目は「Lancers Top」。ランサーズに登録しているフリーランスの中で、人気やスキルが高いトップ数%の上位層に、より報酬が高い仕事をマッチングする。これまでの匿名性ではなく実名制を採用し、レジュメ提出、スキル審査、面談などを行う。

 2つ目は総合スキルシェアリングサービス「pook(プック)」のスタート。個人が個人にスキルを提供できるC2Cのスマートフォンアプリサービスだ。サービス開始時には10カテゴリー74種類の仕事を提供・依頼することができ、スポーツ講師やメイクなど専門性の高いものから、家事代行や相談といった仕事まで、カバーする範囲は幅広い。

 同社は既にC2Cのスキル提供サービス「ランサーズストア」を展開しているが、ランサーズストアはイラスト制作やライティングなどオンライン上で成果物をやりとりするサービスであるのに対し、pookは位置情報を活用したマッチングを行い、実際に会ってスキルの提供を行うという違いがある。

 スキル提供サービスは、「ココナラ」「ANYTIMES」などがあり、ランサーズは後発組だ。だが曽根秀明取締役は「将来性がある分野だが、どのサービスもチャレンジングな状態。広義のフリーランス市場では、1000万人がWeb上ではなくリアルで働いている。その1000万人を長期的な目標とし、まずは10万人に使っていただきたい」と目標を語る。

 3つ目が、デジタルマーケティング事業を担う新会社「QUANT」の設立だ。同社は16年に企業向けのコンテンツマーケティングシステムを開始し、Lancersのノウハウやデータを活用した事業を行ってきた。新会社では、データとAIを活用し、「どのクリエイターに制作を依頼すると効果的なのか」「このクリエイターの成果物はどれだけソーシャルで影響があるか」などを可視化。クライアント企業のデジタルマーケティング活動を支援する。単年度で10億円の売り上げ創出を目標にするという。

 これらの新事業でカギとなるのは、スキルと仕事の効率的なマッチングだ。それを実現するために、解析やマッチング制度を向上するテクノロジー「ランサーズスマートデータテクノロジー」を京都大学と共同で開発する。

キュレーションメディア問題との影響は?

 秋好陽介社長は、「ランサーズは、プラットフォーマ―として社会のインフラになることを目指したい。そのためには、マッチングの精度向上、人・スキルの信頼性、マーケットプレースの健全性が必要になる」と語る。

 前者2つは新事業で実現を目指すが、健全性については、ガイドラインの刷新、品質向上委員会の設置、監視体制の強化など、さまざまな施策を進めているという。

 クラウドソーシングサービスは、ディー・エヌ・エーの「WELQ」に端を発したキュレーションメディア問題の一因になっていると批判を受けてきた。健全性や信頼性を目指すのにはどのような背景があるのだろうか。

 「キュレーションメディアの問題は、背景の一部としてはあるが、それだけではない。今後もクラウドソーシングやデジタルマーケティングを進めていくと、VRなど新技術の今までなかったような仕事がやりとりされるようになり、ガイドラインがない仕事が生まれる可能性がある。プラットフォームとして向き合う仕組みを根本療法として作り、責任を持っていかなければいけないと考えている」(秋好氏)

 「クラウドで仕事ができる」を押し出してクラウドソーシングサービス市場を作り上げてきたランサーズ。フリーランスの働き方や環境が変わりつつある今、方針を変えてさらなる成長を見込む。

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