ダイハツとミラ イースに問う池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2017年06月12日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 5月22日の連載記事でミラ イースとダイハツのリブランディングについて書いた。ダイハツは自らのブランドを再定義して、「Light you up」というスローガンを策定した。これは主役は自動車ではなく人間であり、人の生活を明るく照らす自動車作りをするというダイハツの覚悟である。

 三井正則社長の言葉を借りれば「お客さまに寄り添う、つまりユーザーオリエンテッドな姿勢は、1957年のミゼットから続くダイハツならではの原点であります。この原点を忘れることなく、1ミリ、1グラム、1円にこだわり抜き、今後も軽および軽直上のコンパクトカーを含めたスモールカー市場にダイハツらしい商品を供給し続けてまいります」ということになる。

従来比最大80キロの軽量化を断行した新型ミラ イース。元々の重量を考えると驚異的としか言いようがない 従来比最大80キロの軽量化を断行した新型ミラ イース。元々の重量を考えると驚異的としか言いようがない

 前回書いた通り、このリブランディングは新型ミラ イースがほぼ完成するタイミングで策定されたもので、ミラ イースは新スローガン「Light you up」をベースラインに置いて、その上に積み上げられた商品というわけではない。ただし、企業のブランドというのは来し方と無関係に策定されるものではないので、大筋において新生ダイハツのコンセプトとミラ イースはちぐはぐなものにはなってはいない。

真面目な改良とそれで取り残されたもの

 さて実際に試乗してみてどうだったのか。第一印象としてダイハツの生真面目さは変わらないと感じた。変な山っ気はなく、より良いモノを作ろうとコツコツと努力する姿勢は基本線において信頼に足るものだと思う。

 一番良かったのはパワートレインで、まずエンジンの効率改善で得られた余禄を、ひたすらカタログ燃費競争につぎ込んできたやり方を改め、ドライバビリティの向上に振り向けたことは非常に大きい。発進加速や中間加速の頼もしさが上がり、軽自動車の頼りなさがだいぶ解消された。エンジンだけでなくCVT(無段変速機)のセッティングも目的達成のためにしっかり協調制御されている。ダイハツの目指す実用車として非常に好もしいものだと思う。

 新型ミラ イースの全体を眺めて、ダイハツは恐らく軽自動車の線の細さを克服したいという思いがあったのだろう。足回りの設定も大きく変えてきた。一言でいうならドイツ車志向。商用車的なゴツゴツした硬さではなく、ストロークさせながらロール速度を抑えたしなやかで張りのある乗り心地になっている。サスペンション担当のエンジニアによれば、「フラット」な乗り心地はメインテーマの1つだと言う。具体的にはショックアブソーバーの入力速度が遅い領域での減衰の立ち上げを早め、中速以上での減衰力の変化を抑えてフラットにしているという。

 その成果は直進安定性に如実に出ており、乗り心地的にも微舵角ハンドリング的にも従来の軽自動車より上質なものになっている。ただし、拍手喝采できない部分もある。もっと舵角の大きい領域で、舵角に対するクルマの挙動が一定ではないのだ。

 少しややこしいが詳細に書いておく。減衰の立ち上がりが早まったことで、ハンドルを切ったときのロール(車体の傾き)はゆっくり始まる。ロールが遅いということは路面とタイヤの接地圧の高まりが早いということだ。逆にロール速度が速ければ、タイヤが逃げて路面とタイヤの圧力は急には高まらない。ロール速度が遅ければ、タイヤが逃げない分接地圧は早く高まる。そのため初期減衰を高めれば切り始めてすぐにクルマが向きを変え始める。前述のエンジニアによれば、「今回は微舵角での応答性を上げました」とのことで、筆者が感じた通りだが、問題はその後の連続性だ。

 ダイハツのハンドリングは元来がギュンギュン曲がることを意図しない穏やかなもので、ざっくり言えば舵角に対する横力の高まり比率が低いのが持ち味だ。グラフの角度が寝ているのだ。これは思想の問題で、角度が立っている方が良いか寝ている方が良いかは一概には言えない。そのグラフが途中で急な角度変化をせずにリニアである限り、用途によってどちらもありだ。

 紛うことなき大衆車メーカーであるダイハツはずっと神経質なハンドリングになることを避けてグラフを寝かせた特性にしつけてきた。それは立派な見識であり、リッターカーのブーンなどはまさにこの典型で、穏やかだが一貫した安定感のあるものである。

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