スイフトに追加された驚異のハイブリッド池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年07月31日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

技術と見識

 しかしそもそもベースとなるマニュアルトランスミッションは性能的に優れているのだろうか? 実はマニュアルトランスミッションは、安価、軽量、小型、高信頼性で駆動力の減損も最小。しかもトルク伝達のロスがほぼ無いので、ダイレクトなフィールで運転感覚的にも優れ、美点ばかりである。後出し的に言えばAMTの欠点は唯一「トルク抜け」だけだったのである。

 実用車用として考えれば、スズキのAMTにハイブリッドを加えたシステムは現時点で究極のトランスミッションだと言える。

高回転が苦手なモーターの負荷を軽減するためクランクより圧倒的に回転数の低い変速機の下流にモーターをマウントし、トルク増大のために減速機を用いる 高回転が苦手なモーターの負荷を軽減するためクランクより圧倒的に回転数の低い変速機の下流にモーターをマウントし、トルク増大のために減速機を用いる

 軽量小型という面で言えば、この究極のトランスミッションとHEARTECTの相乗効果で、スイフト・ハイブリッドは、ストロングハイブリッドでありながら1トンを切る車両重量940キロに収まっている。どれだけスゴいかは、非ハイブリッドのBセグメントの各社最軽量モデルと比べるとよく分かる。日産マーチ(940kg)、トヨタ・ヴィッツ(970kg)、ホンダ・フィット(970kg)、マツダ・デミオ(1010kg)。重いのは当然とされてきたハイブリッドなのに、スイフトの他モデルを除けば、マーチと並びセグメント最軽量である。そのせいもあってJC08モード燃費は32.0km/Lとトップクラス。実に自動車の歴史に新たな1ページを加えるほどの事件である。

 実際に乗ってみるとどうか? それでフィールが悪ければいくら理屈だけ良くても話にならないが、システムの制御がすこぶる良い。見切りの見事さに驚いた。モーターはエンジンとは比較にならないほどレスポンスが良いので、やろうと思えば技術的にはトルク抜けを完全に消すこともできたはずだが、トルク抜けを不快ではない程度に意図的に残している。

高出力モーターのためにバッテリーは高電圧化され、リヤシート下に移動した 高出力モーターのためにバッテリーは高電圧化され、リヤシート下に移動した

 CVTに乗ると分かるが、無段階変速は人間の感覚と合わない部分がある。そろそろ加速を止めようとアクセルを緩めているのに、エンジンの回転が下がりながら速度が上がって行く現象はその象徴だと言っても良い。音やリズムの変化と加速の関係性は人の感覚に沿ったもので無くてはならない。変速というメソッドをクルマの走行に必要なものと考えるならば、本来加速中の変速時は少しだけ加速が弱まり、変速後にエンジンの回転が一度下がってから再びトルクで押し出されるべきである。そういう自然な感覚がスイフト・ハイブリッドにはきちんと作り込まれていた。その意図的に残された加速抜けは恐らく気にしない人には分からない程度であり、うるさ型の人には機械が何をやっているかがよく分かるセッティングになっている。

 筆者は試乗から戻って「こういうセッティングになったのは偶然なのか?」とエンジニアに聞いたが、偶然でも何でもなく、納得いくセッティングになるまで何度も何度も微修正を加えて粘った結果だと言う。その見識には正直舌を巻いた。お見事としか言いようがない。

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