中国版フィンテック、平安保険の戦略4億人の金融ビッグデータ(1/4 ページ)

» 2017年09月06日 06時30分 公開
[片山ゆきニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

フィンテックが黒転、純利益のおよそ1割に

 中国の保険業界において、フィンテック分野をリードしている中国平安保険グループ。2025年までの目標として「IT×金融×生活サービスの融合」を戦略に掲げ、世界的な総合金融機関でありながら、ネットを通じてユーザーの生活に密着したサービスを提供する最大手のサプライヤーを目指している。

 平安保険が保険、銀行、投資(証券など)の3事業に、「ネット金融(フィンテック)」を4本目の事業として正式に加えて1年が経過するが、その効果はどうであろうか。

中国平安保険のWebサイト 中国平安保険のWebサイト

 まず、2016年の業績を振り返ってみると、総資産は5兆5769億元(前年比17.0%増、およそ94兆円)、収入保険料(生損保合計)は、前年比21.7%増の4696億元(約8兆円)で、生保・損保とも業界第2位を維持している(1元=16.8円で計算)。収入保険料を含むグループ全体の売り上げは、14.9%増の7125億元で、営業利益は0.5%増の934億元と、16年も増収増益となった。

 次に、純利益(親会社株主に帰属する純利益)の構成から、どの事業が収益に大きく貢献したかを見てみる(図表1)

図表1 純利益から見る各事業の貢献度(16年) 図表1 純利益から見る各事業の貢献度(16年)

 16年の純利益は、前年比15.1%増の624億元(約1兆円)で、そのうち、保険事業が55.5%(生保:35.9%、損保:19.6%)を稼ぎ、収益の最大の柱は生命保険事業であることに変わりはない。新たな事業であるネット金融は、16年に黒字に転じ、純利益の8.4%を占めた(※16年のネット金融事業の黒字化は、平安保険グループ傘下の企業が保有する株式を陸金所に譲渡する上で発生した収益94.97億元を会計規則上、計上したもので、事業そのものによる黒字化ははたされていない)。

4億人の金融ビッグデータ

 では、平安保険のネット金融にはどのようなものがあるのか。

 中国のフィンテックを代表するアリババやテンセントなどのIT企業は、ネットショッピングやシェアリングビジネス、ネットゲームなど、より人々の“日常生活”に密着したアプリやサービスを開発している。また、他社が開発した新たなサービスを取り込むことで、スマホ決済を中心としたモバイル経済圏を形成している。

 一方、平安保険がネット金融で提供する「生活サービス」は、金融機関として、その機能をより“金融”に絞っている。例えば、保険料などの支払いが可能なネット決済の「壱銭包」、ネットを介して資金の貸し借りを仲介するP2Pや金融商品の購入が可能な「陸金所」、資産運用や財テクのアドバイスがもらえる「平安天下通」といった、資金の貸し借りや、金融商品による資産形成などに重点が置かれたサービスである(図表2)

図表2 平安保険が形成する金融経済圏(主なもの) 図表2 平安保険が形成する金融経済圏(主なもの)

 一方、医師とオンラインで健康相談ができたり、薬の手配ができる「平安好医生」、住宅の売買などの「平安好房」など、前掲の金融商品による財テクとは直接関係ないものの、健康情報を通じた医療保険の加入や見直し、個人の不動産の売買といった資産形成につながるサービスもある。

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