核シェルターが売れているのに、なぜ業者は憂うつなのか世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2017年09月07日 06時40分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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日本もあちこちに核シェルターを設置すべきなのか

 話を総合すると、核シェルターは売れているが、スイスなどと比べると、日本では普及しているとは言えない。織部精機製作所の担当者は、売り上げ云々よりも、ミサイルが頭上を飛んでいく時代なのに、子どもにしゃがんで対策させるといった日本全体の危機感のなさに絶望しているのである。もっとシリアスに対策すべきである、ということだろう。

 ただ日本全土に雨あられのようにミサイルが降り注ぐことは現実的にはあり得ない。「Jアラート」でミサイル着弾までに4分しかなくても、シェルターがあちこちにあれば身を守ることはできるかもしれない。仮に核兵器が投下されるような事態が起きれば、その被害地域でシェルターが活躍することは間違いない。

 ただその可能性がどれほどあるのか。またその可能性のために最低62万円(6人用)の換気装置(プラス、窓枠などの密閉措置が必要になるだろう)を購入しようという人がどれほどいるのだろうか。普及率を現在の0.02%から1%に上げるには、130万人分のシェルターが必要になる。これは途方もない数字である。

 とはいえ、頭を抱えてうずくまるという対策が不十分なことは言うまでもない。安全保障における現在の日本の限界を考えれば、ミサイル防衛だけでなく、あちこちに核シェルターを導入することについても、真剣に考えてもいいのかもしれない。

世界を読み解くニュース・サロン:

 今知るべき国際情勢ニュースをピックアップし、少し斜めから分かりやすく解説。国際情勢などというと堅苦しく遠い世界の出来事という印象があるが、ますますグローバル化する世界では、外交から政治、スポーツやエンタメまでが複雑に絡み合い、日本をも巻き込んだ世界秩序を形成している。

 欧州ではかつて知的な社交場を“サロン”と呼んだが、これを読めば国際ニュースを読み解くためのさまざまな側面が見えて来るサロン的なコラムを目指す。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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