過熱するデジタル人材の獲得競争乗り遅れるな(6/6 ページ)

» 2017年09月26日 05時30分 公開
[A.T. カーニー]
A.T. カーニー株式会社
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 これまで今後必要とされるIT人材の類型、定義および、特に採用・育成面の課題感が強いビジネスデザイナーとテクニカルエンジニアの採用について、課題と対応事例、対応にあたっての要諦を述べてきた。最後に、それぞれについてもう一段踏み込んだ取り組みの可能性を探りたい。

 ビジネスデザイナーの採用に関して、本稿では成功実績があるビジネスデザイナーの採用と社内環境の整備を述べた。さらに踏み込んだ取り組みとして、社会に出る前の学生への働きかけを提案したい。具体的には、学生起業家への投資・協働から、優秀な学生インターンの囲い込み、大学への寄付講座提供による優秀な学生へのアクセスの確保などが考えられる。大学発ベンチャーが業界の経験者を社外から迎えることで売上高・従業員数が増加している調査結果もある通り、企業ととの協業は学生にとっても効果が高い。デジタル系ビジネスでは大学生・大学院生以外にもデジタル系専門学校の学生など、幅広い協業先候補があると考えられる。

 また、テクニカルデザイナーの採用に関して、本稿では海外の有力マーケットにおける採用と日本の若い人材の採用について紹介した。さらに踏み込んだ提案として、ここでは大手SI企業やWebサービス企業による大規模な取り組みの可能性について言及したい。

 本稿で、日本では大手SI企業を頂点としたピラミッド構造の中にテクニカルデザイナー人材が囲い込まれており、イノベーティブな仕事に取り組みづらい現状を述べた。しかし、この構造を逆手に取り変革を起こすことで大きなムーブメントにつながる可能性がある。例えば、大手SI企業(または大手Webサービス企業も可能と想定される)がイノベーティブな人材を育成・派遣する大規模な人材プールを構築し、イノベーションが必要な事業会社に派遣するスキームの創出が考えられる。一般に、事業会社では事業の変革と安定化を交互に行うため、優秀なテクニカルデザイナーに常にイノベーティブな業務機会を与えることが困難だ。

 他方、優秀なテクニカルデザイナーを大手SI企業などでプールした場合、イノベーションが必要なタイミングで事業会社に派遣できるため、テクニカルデザイナーは常にイノベーティブな業務に従事できる。このような人材プールはスケールメリットが働くため、大規模な仕組みの構築が有効だ。取り組む企業には、日本全体あるいはアジア・グローバル規模のテクニカルデザイナー育成・流動化システムの構築を目指してほしい。

 本稿ではここまで、取り組みやすい打ち手から大規模な構想まで、グローバル規模で発生しているWar of Digital Talentへの対応を考察してきた。デジタル系人材の争奪戦は始まったばかりで、今後も激化が想定される。デジタル系ビジネスのイノベーションの原動力は優秀な人材のため、勝つためには優秀な人材を先手先手で確保することが効果的だ。これまでIT及びデジタルの取り組みでは、欧米や勢いのある新興国が先行し、日本は後手となることが多かった。多くの日本企業がデジタル系ビジネスの「勝ちパターン」の変化に向き合い、デジタル系人材の争奪戦を勝ち抜いて、グローバルのイノベーションをけん引していく時代が到来することを望んでやまない。

著者プロフィール

針ヶ谷武文(はりがや たけふみ)

A.T. カーニー プリンシパル

東京大学教養学部卒業。大手通信会社で営業企画・事業企画・サービス開発を経て、A.T. カーニーに入社。通信・ハイテク・メディア企業を中心に、海外事業戦略、新規事業戦略、事業ポートフォリオの再構築、事業ターンアラウンド等を支援。

伴勇樹(ばん ゆうき)

A.T. カーニー シニア・ビジネスアナリスト(執筆当時)

一橋大学法学部卒業。リクルート、リクルートテクノロジーズを経て、A.T.カーニーに入社。ハイテク、ヘルスケア、金融等の業界に対して、中期経営計画、新規事業戦略、IT戦略策定等を支援。「ITシステムの罠31(実業之日本社)」執筆協力。


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