広報→IT未経験で情シスに 住友商事「年間12億円削減」の生成AI活用を支える“29歳エース社員”の仕事観教えて! あの企業の20代エース社員(1/4 ページ)

» 2025年12月15日 06時00分 公開
[仲奈々, 大村果歩ITmedia]

教えて! あの企業の20代エース社員

 あの企業の20代エース社員にも「新卒1年目」の頃があった。挑戦、挫折、努力、苦悩――さまざまな経験を乗り越えて、今の姿がある。企業に新たな風を吹き込み、ビジネスの未来を切り開く20代エース社員の「仕事」に迫る。


 「1週間後にIT部門へ異動です」──当時住友商事の広報部で働いていた浅田和明さん(29歳、IT企画推進部 インフラシステム第二チーム)にとって、その言葉は“青天の霹靂”だった。

 一時は広報職として「情報発信のエキスパート」を目指そうとしており、「正直ショックだった」と当時を振り返る。

住友商事 IT企画推進部の浅田和明さんが取材に答えてくれた(編集部撮影)

 浅田さんは現在、生成AI活用推進の旗振り役として活躍している。

 住友商事は2024年4月から、海外グループ会社を含む約9000人を対象に、「Microsoft 365 Copilot」の一斉展開を開始。現在のアクティブユーザー率は約90%、毎日利用するユーザーは約2000人と、AI活用を社内に定着させてきた。さらに、年間のコスト削減効果は約12億円と試算されており、社員の業務や働き方にも大きな影響を与えている。

※参照:コスト削減効果は年間約12億。住商の「生成AI活用」最前線

 浅田さんは、広報部から予期せぬ異動を経て、情報システム部門へ転身した「IT未経験者」だ。広報出身の29歳は、なぜ生成AI定着の最前線で成果を上げられたのだろうか。その背景には、広報での経験を生かした“攻め”の発想と、職種に限定しない、浅田さんが大切にする仕事観があった。

「人と一緒に何かやりたい」 住友商事に入社

 浅田さんの大学時代は、目標が定まらない日々だったと振り返る。

 「将来やりたいことが何なのか、よく分からなかったんです。当時はサークルや部活に打ち込むでも、学業に力を入れるでもなく、アルバイトばかりしていましたね」

 転機となったのは就職活動だ。自己分析を重ねる中で、ある軸が見えてきた。

 「自分1人でできることには限界があります。でも、人と一緒だと、できることの上限はないなって。それで、たくさんの人と力を合わせて何かを成し遂げる仕事に興味を持つようになりました」

 1人で完結する仕事ではなく、誰かと協力しながら大きなことを成し遂げたい。その思いから、商社を志望するようになった。商社であれば、さまざまな業界の人々と協力しながら、スケールの大きな仕事ができる。そう考えたのだ。

 中でも住友商事に魅力を感じたのは、就職活動中の出会いがきっかけだった。大学の学内セミナーに来ていた人事担当者の話を聞いた時のことを、浅田さんはこう振り返る。

 「仕事への情熱がすごくて、話もとても面白くて。『こんな方が働いている会社、いいな』と直感的に感じました」

 2019年4月、浅田さんは住友商事に入社する。

 入社後の配属先は広報部だった。最初の2年間は制作チームに所属し、グローバルWebサイトの運営を担当した。

 といっても、サイトの更新をするだけの仕事ではなかった。住友商事では、広報部がWebサイトのインフラ部分まで管理している。AWSでサーバを増強したり、ロードバランサーの調整をしたりと、技術的な業務も多かった。

 文系出身の浅田さんにとっては未知の領域だったが、「なぜWebサイトは動くのか」「この動作をさせたかったら、どうしたらいいのか」と興味を持って取り組むうちに、徐々に理解が深まっていった。後述するが、この経験が後のIT部門での仕事にも生きることになる。

 そして2020年からは、同部署の報道チームへ異動。プレスリリースの作成や記者対応など、社外への情報発信が主な業務となった。営業部門にヒアリングし、文章を作り、記者に興味を持ってもらえるよう働きかける毎日だった。

 「広報の仕事を通じて学んだのは、情報の届け方でした」と浅田さんは話す。どれだけ良い情報があっても、伝え方を間違えれば届かない。誰に、どのタイミングで、どんな形で伝えるか──その設計こそが広報の本質だと実感した。

 まさに多くの人と協力しながら、新しい価値を世の中に届けていく仕事に、浅田さんは「この道のプロフェッショナルになりたい」と考えるようになった。しかし、その計画は思わぬ形で覆されることになる。

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