広報→IT未経験で情シスに 住友商事「年間12億円削減」の生成AI活用を支える“29歳エース社員”の仕事観教えて! あの企業の20代エース社員(3/4 ページ)

» 2025年12月15日 06時00分 公開
[仲奈々, 大村果歩ITmedia]

「セミナーやっても届かない」 広報経験が生きた定着施策

 2024年4月、住友商事は海外グループ会社を含む約9000人を対象に、「Microsoft 365 Copilot」の一斉展開を開始した。浅田さんはその推進役として、定着施策の設計を担うことになった。

 多くの企業が生成AIの導入に苦戦する中、浅田さんは「広報経験」を武器にして、今までにない独自の進め方で推進していった。

 「届ける相手のことを理解しないまま発信しても届かない。それは広報時代に学んだことです。だから生成AIを本気で社内に広めたいなら、『セミナーをやれば利用率が上がる』という単純な話ではないと思いました」

 同じ情報でも、伝え方次第で「届くか届かないか」は大きく変わってくる。例えば、一方的にセミナーを開催しただけで、「生成AIの価値を届けられた」とは思ってはいけない。本気で利用を促進したいなら、利用者の視点に立った発想が必要だという。

 そこで浅田さんは、マーケティング理論の「キャズム」の考え方を社内施策に応用した。「新しいもの好き」な人から、「全くとっつけない」人まで、社内ユーザーにはグラデーションがある。さらに、ツールの利用状況も「使っている・使っていない」の二択ではなく、「知る」「理解する」「活用する」「業務変革する」という段階に分類できる。それぞれに適したアプローチを設計していったのだ。

 この発想は、従来の情報システム部門にはなかった。IT未経験の他部署出身だからこそ、情シス常識に捉われずに進められたという。

 もともと情報システム部門は、24時間365日の安定稼働を守る「守り」の仕事がメインだった。しかし、生成AIの時代の今は、攻めの姿勢も求められる。浅田さんは、広報で培ったコミュニケーション力を武器に、社内の意識変革に取り組んでいった。

 当時、同ツールは登場したばかりで、確立された導入手法は存在しなかった。UIも頻繁に変わる。正解が分からない中で、試行錯誤を重ねていった。

 具体的な施策の一つが、社内のアンバサダー制度「Copilot Champion」だ。生成AI活用に意欲的な社員にも、共に推進役を担ってもらう。浅田さん自身が全てを教えるのではなく、共感してくれる仲間と一緒に会社の文化を変えていく。そうすることで、組織全体に活用の文化が広がっていった。

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