人工知能(AI)は優秀な人材を見極められるのか――。
いつの時代も優秀な人材の確保は企業にとって大きな課題であり、特に新卒採用は企業の成長に関わる重要な投資である。近年、その採用プロセスにAIを活用する企業が増え始めている。その代表的な例がソフトバンクだ。
同社は2017年5月29日から、新卒採用のエントリーシート(ES)選考にIBMの「Watson」(以下、ワトソン)を活用。過去のES選考のデータを学習したワトソンが、受験者のESの合否判定をしているという。
採用業務にAIを活用する狙いは何か。また、人事の役割をどのように変化させようとしているのか。人材採用部 採用企画課の中村彰太課長と安藤公美氏に話を聞いた。
――ES選考にワトソンを取り入れた背景について教えていただけますか?
中村: 弊社の新卒採用のプロセスでは、ESが最初の試験項目となります。しかし、毎年約1万人の学生が応募するため、膨大な数のESを読まなくてはなりません。
ESの対応には約10人で取り掛かっていますが、1200字(1設問当たり600文字×2)の文章を全員分読むのに年間で800時間以上も費やしています。採用活用の中で最も過酷な業務であり、大きな課題となっていました。
一方、世の中には既に文章を自動で添削してくれるサイトがたくさんあります。文章の添削ができるなら、「文章の評価」も自動化できるだろうと考えていました。そこで、既に文章データの分析などで実績があるワトソンを活用し、試験的に始めました。
――ワトソンはどのようにしてESの文章を評価しているのですか?
安藤: 過去に学生が提出したESが数年分ありましたので、「合格したES」と「不合格だったES」を1500件分、それぞれの特徴をワトソンに学習させました。
過去の文章データと比較したときに、そのESが合格になるのか、不合格になるのかを判断できるようになり、採用スタッフの合否判断とほぼ同じになるという結果が得らたのです。
合格のESと不合格のESの振り分けを自動化できたことで、ES処理に掛かる時間を75%も削減することができました。
――具体的には、文章中のどのような特徴を捉えて判断しているのですか?
安藤: 実は、何をどう判断しているのかについては完全にブラックボックスであり、私たちも分からないのです。先ほども申し上げた通り、過去の文章を大量に読ませ、合格と不合格のESの特徴をワトソン自身が学習して判断しているので。
また、カギカッコなどの記号を使って主張したいポイントを目立たせる書き方をする人も多いと思いますが、ワトソンは記号の読み込みができませんし、データでの提出なので字の丁寧さなども評価には関係ありません。
中村: ここが重要なポイントなのですが、当社にとってES選考は、いわゆる“足切り”が目的です。
受験者の「熱意」や「性格」「ポテンシャル」についてじっくり見極めていくのは面接であり、ESでは求める人物像として最低限の条件をクリアしているかどうかを見ています。機械的に採点していく部分であり、だからこそ自動化しようと考えたわけです。
ちなみに、ワトソンが「不合格」にしたESは、必ずスタッフが再度目を通しますので、受験者のESがワトソンだけで落とされることはありません。
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