スバルでは今、ブランド改革プロジェクトが進行中だ。WRCイメージの超高性能AWDや雪国のアシグルマというイメージから、スバルの新たなキーワード「安心と愉しさ」へとシフトしようとしている。それは図らずもアイサイトで築いた安全と、従来からのスポーツイメージを融合させた先に新しいスバルのブランドを構築しようという試みだ。
生産台数から見れば、スバルは弱小もいいところで、トヨタの1000万台はおろか、スズキの300万台と比べても3分の1の100万台規模。台数を追おうとしてもそれには大幅な生産設備の増強が必要で、成功すれば良いがリスクが極めて高い。まともな経営者なら、利益率を上げることを優先する経営環境である。だからこそ価格勝負が本質になる軽自動車から撤退したし、引き続き商品の付加価値を上げなくてはならない。その付加価値の源泉の1つが「安全」だとすれば、浮ついた考えでは進められない。「短期で売り上げが伸びれば長期的には信用を失っても良い」と考えられる状況にはないのだ。
そういうスバルの置かれた状況に回帰して、もう一度ツーリングアシストがどういうものであるべきかを考えれば、今回のような基本に忠実な、ドライバーが主体的に運転せざるを得ない形にまとめたシステムの構築は得心がいく。
筆者自身も例外ではなかったように、ハンドルのアシストという言葉を聞いたとき、多くの消費者はそこに「自動運転」を重ね合わせる。運転という労働から解放された世界がどうしてもイメージされるのだ。だからこそ自動車メーカーはそういうドライバーの行動を前提として、想定外の使われ方を排除するシステムを構築しなければならない。
10秒に1度の警告が嫌なら、あるいは曲がり率のキツいコーナーで突然アシストを放棄されるのが嫌なら自分でハンドルを切るしかなくなる。今回スバルはそういうシステム構築を選んだ。恐らく営業サイドから、筆者が冒頭に挙げたような不満がどんどん上がってくるだろう。だがそれに負けてはいけない。分かりやすい不誠実より、例え分かりにくくても誠実である方が大事だ。人の命がかかっている自動車というプロダクツは責任が重い。
図らずも9月27日にアライアンスの盟主であるトヨタが自動運転に関するレポートを発表した。以下に抜粋する。
「自動運転技術は、クルマと人との関係をより緊密にしていく可能性があると考えています。 〜中略〜 安全性に関して言えば、運転技術は個人差があり、また、同じ個人であっても、年齢や経験によって、上達したりあるいは、下手になったりすることがあるでしょう。日々の健康状態、疲労度合、あるいは気分によっても、運転技術にブレが生じるでしょう。トヨタの自動運転技術は、こうした個人個人の変化や状態をクルマが検出し、安全運転をサポートすることを目指しています」
人とクルマが協力し合って高める安全。スバルもまた同じことを考えていると筆者は思う。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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