本当は「長生き」なんてどうでもいい定年バカ(3/4 ページ)

» 2017年12月04日 07時24分 公開
[勢古浩爾ITmedia]

健康寿命、男性71歳・女性74歳のウソ

 平均寿命には寝たきりの人や認知症の人でも、長寿であれば数に入っているから、手放しで喜ぶべき数字ではないということが分かり、自分で自分の面倒がみられる元気な長寿でなければ意味がないということで、「健康寿命」が注目を浴びている。さっそく、通販業者たちは、「健康寿命」を強調し、健康サプリメントや室内ランニングマシンを売り込もうと必死である。

 私は元々世界一の長寿国のなにがうれしいんだ、と思っていたから、平均寿命などに興味はなかった。劣悪な生育環境で乳幼児の死亡が高く、最新医療も広く普及していないがゆえに、あるいは戦争で若者が死に、空爆で民衆が大量に死ぬがゆえに、その国の平均寿命が極端に低い、というのでもないところで、2、3歳の平均寿命の差を争って、どんな意味があるのだ、と思っていたのである。

 そんなところに健康寿命である。そういうことだったのか、と思い、いくら平均寿命が上がっても、健康寿命でなければ意味がないと納得できたのである。ところが、ここにもへんな計算がでてきた。男の健康寿命は平均寿命から9歳マイナス、女は12歳マイナスになるとされたのである。ということは男の平均寿命は80歳だから健康寿命は71歳、女は86歳だから74歳ということになる。あまりにも早すぎないか。世間を見渡せば、男女とも80歳をすぎても元気な人はうじゃうじゃいる。しかし、その健康寿命の計算によると、私は、来年が自分で日常生活を送ることができる最後の年となる。

 実際はこうだ、と言っている人がいる。「本当の健康寿命は、男性82歳、女性は85歳」(ITmedia ビジネスオンライン、2016年6月6日)を書いた川口雅裕という人である(老いの工学研究所研究員)。川口氏はこういっている。「健康寿命が男性71歳、女性74歳と聞いて違和感を覚える人もいるのではないだろうか」「実際、仕事場・スーパー・夜の居酒屋・休日のハイキングなどで元気な高齢者は、日常的に目にすることができる。男女とも70歳代前半で『健康寿命が尽きる』というのは、あまりに実感に合わない」。まったくそのとおりである。

 健康寿命の考え方や統計の取り方は面倒だからここでは省くが(川口氏はきちんと説明している)、彼によると正しい数字はこうである。「要するに、一般に認識されている意味の『健康寿命』は、2010年時点で男性が82.2歳、女性が85.5歳なのである。(中略)介護を要する期間は男性:2年弱、女性:3年半程度という事実である。70歳代前半で健康寿命が尽き、10年も介護状態になるというのは事実とは全く異なるということだ」

 私は十分に納得する。しかし、これもまたただの数字である。知ったところで、意味はない。結局、自分が元気なままでどこまでいけるかだけである。平均寿命も健康寿命も、個人が生きていく目安にしてはならないと思う。平均までは生きたいと思うのは人情であるが、意味のあることではない。平均を超えたから得をした、達しなかったら損、と考える人がいるなら、それはさもしい考えである。

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