トヨタがレースカーにナンバーを付けて売る理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2018年01月15日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

発電所との効率競争

 さて、「凄そうな錯覚あるいは幻想」としてル・マンのトップレベルというのは十分に機能するだろう。では、トヨタはその錯覚と幻想で何を手に入れたいと考えているのだろうか?

 さて、一度話を変える。GRスーパースポーツコンセプトはハイブリッドである。パワーユニットと基本シャシーはベースとなったTS050 HYBRIDの流用なので当然だ。動力性能が当代一流なのは当然として、このクルマにはもう1つトピックがある。それは熱効率である。

2.4リッターツインターボV6ユニットと組み合わされるのはレース専用のTHS-Rハイブリッドユニット 2.4リッターツインターボV6ユニットと組み合わされるのはレース専用のTHS-Rハイブリッドユニット

 今回のカンファレンスで、友山副社長は「TS050は熱効率が50%を超えている」と発言している。筆者は別の機会に「55%に近づいており、すでに目標は60%に置いている」と言う言葉も聞いた。

 ガソリンエンジンの熱効率は長らく30%と言われてきた。つまりエネルギーの70%を熱として捨てていたのである。新型カムリがエンジン単体で最大41%という快挙を達成しているが、カムリもハイブリッドなので、10〜15%と言われるエネルギー回生分を加えれば55%超えは射程圏内に入ってくる。そしてGRスーパースポーツコンセプトはそれを上回る可能性を持っている。

 GRスーパースポーツコンセプトの熱効率が60%に近づくことが何を意味するかと言えば、それはEVのエネルギー効率を上回る可能性だ。液化天然ガス(LNG)火力発電の効率は発電所のシステム性能によって多少上下するが、おおよそ50%から60%あたりだ。性能を左右するのはタービンブレードの耐熱温度で、高いほど予圧縮が上げられて効率も上がる。しかしそのために1700℃に耐える材質を使えばイニシャルコストも上昇するのだ。もちろんGRスーパースポーツコンセプトが標榜する60%も最大値であり、運転条件によって下がるだろうが、遠くの発電所から送電するときのロスを勘案すれば、平均値でもさほど違わない可能性が見えてくる。少なくとも石炭と石油による火力発電の熱効率は当然軽く凌駕する。

 それぞれ別の問題を抱えており、なかなか決め手になりかねている原子力と風力、太陽光などを別とすれば、熱効率において主力となるLNG火力発電所に引けを取らなくなる。友山副社長は「発電所が走っているようなものです」と筆者に言った。

 しかもその世界一の超熱効率カーが、スーパースポーツなのだ。かつてのふにゃふにゃなエコカーではなく世界最速レベルの動力性能を持つ。トヨタはここしばらく「ガラパゴスなハイブリッドでEVに遅れをとった」とくさされてきたが、GRスーパースポーツコンセプトはその評判を一気に覆し、「Hybrid is the Best」を高らかに宣言できる。

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