クルマはこれからもスポーツであり続けられるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2018年01月22日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

不快な加速度と楽しい加速度

 新幹線に乗っていると不定期に左右に揺すられる。あれは瞬間的に左右の揺れのピークが来るからだ。大きさは恐らく0.1G程度の加速度だと思う。絶対値はさほど大きくない。だが加速度が急変するから不愉快である。同じことはタクシーに乗っていても感じる。前後左右の唐突な加速度のピーク。体が前後左右に揺すられて不愉快である。実は単純な加速度に、人間は順応してしまう。例えば新幹線の停止からの加速は穏やかに感じる。絶対値も0.1G以内で大きくはないが、それ以上に、加速度が変化しない。こういうケースで人間は先に述べたように順応して不快に感じないのだ。つまり快不快を分けるのは、加速度ではなくその変化。つまり躍度だということになる。

 新幹線やタクシーは乗せられているだけなので、ただ我慢するしかないが、運転しているときは違う。運転中に新幹線やタクシーに乗せられているときと同じセンサーを作動させれば良い。

 その人の腕にもよるが、いつも通りに運転すると、自分の運転中にも不連続なピークが結構あることが分かるはずだ。いわゆる運転が下手というのは、このピークを抑えられないことを言う。だから揺すられた同乗者は酔いやすくなる。

 では、このピークとは何か? それこそが躍度に支配された現象だ。例えば、市街地で10キロを30分かけて走ったとしよう。この間の平均速度は時速20キロだ。ではその間スタートからストップまで速度計の針がずっと20キロを指していたのかと言えば、もちろんそんなことはない。

 その時々に異なる瞬間速度があり、それを均したものが平均速度になるわけだ。そして瞬間速度が刻々と変わるなら、その瞬間瞬間に加速度が発生している。この加速度の変化量が一定だと人間は不快を感じない。例えば、高層ビルの高速エレベーター。あれは加速度の変化を急変させず連続的にするから不快感が少ない。感じるのは主に足の裏の重力変化だけだ。だが、エレベーターで加速度のピークが常にしゃくるように変化したらどうだろう。そんなものにはおっかなくて乗っていられない。

 この快不快の分水嶺こそが躍度である。不愉快な場面、つまり躍度=加速度の変化量が急変する場面を書き出してみよう。例えば、飛行機がエアポケットに入って落下するとき。あるいはクルマが止まる寸前にマイナスの加速度が急増するカックンブレーキ。もちろん新幹線の横揺れも同じだ。

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