その端末とは、ログバーが14年に開発した指輪型ウェアラブルデバイス「Ring」。Bluetoothでスマートフォンと接続し、指に装着して簡単なジェスチャーをすると家電製品やロボットを操作できるもので、市場から大きな期待を集めた。
しかし吉田社長によると、発売後、意外にもRingの売れ行きは伸び悩んだという。その要因は「多くの機能を詰め込みすぎたこと」と分析している。
「Bluetoothとユーザーの動作認識を組み合わせた結果、遠隔操作に失敗した際に電波とジェスチャーのどちらに問題があるのか判断できないケースもあった。多機能性が裏目に出てしまった」
吉田社長はこの経験から、たとえ高い技術力を持っていても、手を広げすぎると失敗する場合もあると学んだという。
「この失敗で落ち込まず、“シンプル・イズ・ベスト”を合言葉に、次こそ世間を驚かせるようなユニークなデバイスを生み出すと決心した」
そして、かつて留学先の米国でコミュニケーションに苦労した経験をヒントに、端末に話しかけるだけで翻訳できる“魔法のようなデバイス”の商品化を目指すと決めた。
開発の際は、かつて大きな反響を呼んだ「指輪型」のコンセプトを捨て、真っ白な状態から取り組んだ。そんな吉田社長が開発中にこだわったのは「全部やってみる」ことだった。
吉田社長とスタッフは、SIMカードを挿入できるタイプ、Wi-Fi接続が可能なタイプ、ユーザーが話す内容のみ翻訳できる一方向タイプ、話し相手の発言も翻訳できる双方向タイプ――など、多岐にわたるデバイスを作り、実証実験で実用性を徹底的に比べた。
「『なぜそんな仕様にしたのか』と聞かれた際、『全て試作した上で、こんな結果が出たから』と根拠を示すことで、多くの人に納得してもらいたかった」
そして数ある候補の中、現地での会話で最も役立った“ベストな端末”は、一方向の翻訳のみ可能で、スタンドアロンで動作するスティックタイプ――現在、世に出したモデルだった。
「海外で出会う現地の人がみんな優しいとは限らない。実証実験では、iliを取り出して会話方法を説明している間や、Wi-Fi接続を試している間に『早くしてよ!』と怒って立ち去ってしまう人もいた。発話までの時間と翻訳精度のバランスも良く、最も実践で役立ったのが現在のiliだった」
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