想像が膨らみすぎなのだろうが、こうしたデータベースがもし存在するようになれば、広告宣伝費のあり方もまったく変わってしまうことになるだろう。
これまで主流だったマス広告は、例えばテレビCMにいくらかけたからといって、その効果がどれくらいの売り上げにつながったのか正確に測ることはできないし、ターゲットとなる顧客層に集中的に投下するということも大雑把にしかできない(せいぜい流す時間帯を考えるくらいだ)。
効果検証のできないマス広告の価値は大幅に下がり、またデータベースに参加していない小売チェーン(販促効果の測定ができない小売)への販促費投入も激減することになるだろう。消費者一人一人(もしくは世帯)に合わせたマーケティング(いわゆるOne to Oneマーケティング)がある程度可能になってしまえば、非効率なマス広告は前世紀の遺物と化す。マーケティングの本質的なイノベーションも、技術的にはもう可能になっているのである。
ただ、こうした取り組みが、セルスペクト、薬王堂チームの思惑通りに、ドラッグストアの業界で浸透するかどうかは、まだよく分からない。前述の通り、このモデルの目指す方向は、今後の社会的課題である医療費の抑制につながる社会的意義がある上に、ドラッグストアのビッグデータ利活用の面でも大きなメリットが認められるため、論理的には成功する可能性は高いと思っている。
ただ、ここで懸念すべき点があるとしたら、ドラッグストアの参加者がその利害の対立によって、分裂もしくは瓦解(がかい)してしまう可能性があるということかもしれない。ドラッグストア業界というのは、例えるならば、戦国時代の末期に数カ国にわたって支配権を持った戦国大名のような地域の有力企業同士が、最終局面に向かってせめぎ合っている状況にある。こうしたプラットフォームが一定以上のデータ量を確保できるか否かは、こうした業界大手、地域衆力企業の思惑や、合従連衡の行方に大きく左右される。
この取り組みが成功するか否かは、今後参加するドラッグストアの顔ぶれを見ていくと、ある時期におのずと明らかになるであろう。思わせぶりな言い草だが、これは分かる人には分かることだと思う。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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