一方、こうした巨大企業に対抗するためには、コスト優位の戦略ではなく「差別化戦略」を採用するのが良いとされる。市場に後から参入した企業や、経営体力が小さいベンチャー企業はたいていの場合、差別化戦略を用いている。
モスは後発で、しかも先行者は圧倒的な知名度を持つグローバル企業である。このため同社は、経営学上のセオリーに従い、徹底的な差別化戦略を心掛けてきた。モスの商品価格は高めだが、こだわりのあるものが多く、常にマックとの違いを意識していることが分かる。
このため同じハンバーガー店といっても、両社の客層は異なっており、厳密な意味で、顧客の奪い合いは行われなかった。マックとモスが比較できないといったのは、そういった意味である。
ただし、モスが採用している差別化戦略は、市場が限定されてしまうというデメリットがある。同社は想定する潜在顧客層をほぼすべて取り切ってしまった可能性が高いが、市場を変えるという決断は行わなかった。このため人口減少分がそのまま客数の減少につながり、これが業績の伸び悩みにつながっている。
これまでモスは、直営店舗比率の見直しなどで対応してきたが、そろそろこうしたテニクカルな手法も限界に近づいている。抜本的な戦略転換を行うのか、よりスリムな体制を目指し、市場に逆らわない経営を続けるのか、同社は選択を迫られつつある。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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