「40年で黒字」が難しい、阪急・大阪空港線 どうすれば実現できるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2018年04月20日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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利用客を増やせないなら……

 売り上げを増やす方法はどうか。実はここに大阪空港ならではの弱点がある。周辺は住宅街で、過去の騒音問題訴訟などの経緯から、運用時間は午前7時から午後9時までと制限されており、1日の旅客機の発着回数は定期便が370回まで。そのうち、大型ジェット機は200回までだ。年末年始や夏休みの繁忙期は特別に臨時便が認められているとはいえ、そもそも飛行機の運行回数が少ないため、空港連絡鉄道がフル稼働する時間も短い。

 大阪空港線の利用者を増やすためには、そもそも大阪空港の旅客機の運航を増やす必要がある。ただし厄介なことに、大阪空港は2本の滑走路がありながら、同時には使えない。滑走路の並ぶ間隔が短いため、羽田空港や成田空港のように同時発着ができない。

 利用客を増やせないなら、単価を上げるという方法もある。国交省の調査結果は、現在の阪急電鉄の運賃体系を基にしていると思われる。現在、曽根〜梅田間は8.7キロで、運賃は190円。大阪空港まで4キロとして梅田までは12.7キロ、220円となる見込みだ。では、現在の梅田〜大阪空港の公共交通はどうか。リムジンバスで約30分、640円。大阪モノレールと阪急宝塚線を蛍池駅で乗り継げば、乗り換え時間含めて約30分。420円となる。

 これに対して、「大阪空港線」は220円だ。200円くらいの加算運賃を設定しても良さそうだ。国交省の調査結果では、梅田まで短縮時間は6分というけれども、私がダイヤを検討したところ、停車駅を十三に絞った急行を運行すれば10分短縮、20分程度の所要時間で済みそうだ。乗り換え1回、30分のモノレールと同額でもいけそうな気がする。収支は大きく改善する。運賃の前提が変われば、収支だけではなく、便益比の再計算も必要になる。周辺の交通機関の売り上げに影響するからだ。これはもう一度計算していただきたいところである。

 心配なところとして、2037年に予定されているリニア中央新幹線の大阪延伸の影響がある。これは現在の調査結果に反映されていると思われるけれども、東京〜大阪間の航空便利用客がリニア中央新幹線に移るだろう。その時、大阪空港の利用客はどう変わるか。望みがあるとすれば、東京以外からの訪日客の移動だ。京都と北海道、京都と九州などの周遊で航空便を使ってもらえれば、大阪空港から阪急で行ける。阪急電鉄にしても、京都と大阪空港を梅田駅折り返しで直通する列車を検討してもいいと思う。

 大阪空港を今まで以上に活用するために鉄道アクセスは重要だ。大阪空港線の実現のため、まだまだ策はあると思う。関係各位の健闘に期待したい。

photo モノレールから見た大阪国際空港ターミナル

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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