「キリンレモン」に学ぶ、成功するリニューアルの鉄則90周年を機に変わったロングセラー(1/2 ページ)

» 2018年05月14日 09時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 キリンビバレッジのロングセラー炭酸飲料「キリンレモン」が売れている。90周年を迎えた4月に、パッケージや味を大きくリニューアル。飲料業界では「発売2週間で1000万本」がヒットの目安と言われているが、わずか1週間で1000万本を売り上げ、好調なスタートを切っている。

 リニューアルを手掛けたのは、入社9年目の女性マーケター・二宮倫子さんだ。「午後の紅茶」「ファイア」ブランドを経て、現在はキリンレモンのほか、「キリン メッツ」といった炭酸ブランドを担当している。

キリンレモンのリニューアルを手掛けた二宮倫子さんに話を聞いた

 キリンレモンは1928年に発売されたキリングループの“顔”ともいえるブランド。しかし2014年のリニューアル以降はほとんど投資をしておらず、15年からは同じ炭酸ブランドのメッツに集中投資。その結果、キリンレモンの売り上げはゆるやかな右肩下がりの状態にあった。

 課題も生まれていた。14年のリニューアルは、10代をターゲットにし、高校生と共同開発をしたもの。ブルーとイエローでボトル全体を覆うようなパッケージだった。フレッシュさはアピールできたが、ブランドが生まれた当時の「着色料を使っていない無色透明の炭酸飲料」というイメージは消費者に伝わりづらくなった。ヒアリングをすると、「液体の色は黄色でしたよね?」「ちょっとジャンクな感じがする」といった声も挙がった。

 「再びキリンレモンに力を入れよう」――そんなプロジェクトが立ち上がったのは17年の春ごろ。さまざまな案が出される中で、二宮さんはリニューアルを提案した。ただ、「90周年だから」という“周年モノ”としての施策ではない。

 「90周年は社内にとっては重要な節目ではありますが、お客さんにとっては大きな価値になりません。『90周年だから飲んでね』というコミュニケーションは、いわばメーカーのエゴです。改めて原点に立ち戻ってブランドを見つめ直してみると、キリンレモンには今の時代だからこそ打ち出せるポテンシャルがありました」(二宮さん)

 炭酸飲料市場は大きく変化している。消費者のトレンドは「甘さ離れ」「健康志向」で、無糖炭酸飲料は2桁成長を遂げているが、甘い炭酸飲料は横ばいの状態にある。その中で、90年前のキリンレモンがこだわっていた「着色料・人工甘味料を使わない」という価値が力を発揮すると考えた。

 「90年前にそこに価値を見いだしていたのが、今思うと非常にセンセーショナルですよね。一周まわって……というわけではないのですが、『品質にこだわった、安心して手に取れる炭酸飲料』は、今の時代にマッチした価値になっている。キリンレモンのもともとの立ち位置に戻すことが、大きなビジネスチャンスになると考えました」

リニューアルの“鉄則”

 パッケージデザインはガラリと変えた。90年前のパッケージを踏まえ、キリングループを象徴する聖獣の麒麟(キリン)を中央に。ラベルは黄色と青色と水色の“キリンレモンカラー”を使ったが、「着色料不使用」を伝えるために透明の印象が強い。ペットボトルの容器は「できるだけビンのように見せた」という。味も消費者の好みの変化に合わせ、甘さを控え、香りも果実のレモンに近いピール感のあるものにした。

ALTALTALT 左から、新パッケージデザイン、リニューアル前のデザイン、初代キリンレモンのデザイン

 新たにメインターゲットとしたのは、20〜30代の男女。特にペルソナとして設定したのは、「ナチュラル」や「健康」にこだわっている20〜30代の感度の高い女性だ。二宮さんは「ブランドはお客さまと作っていくもの。例えばAppleのMacにオシャレなイメージがあるのは、使っている人たち自身がスタイリッシュだからですよね。『最初に選んでほしい人』を1つの指標として、その人たちが『買ってもいいな』と思ってもらえるキリンレモンにすれば、そのフォロワーにも手に取ってもらえるようになると考えました」と話す。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.