その男性とは彼が部長時代からのお付き合いです。当時の彼はとてもクレバーで、部下たちからの信頼も厚く、組織をドンドン元気にし、チームの業績も向上させていました。ですから、彼が社長になったと聞いたときは、なるべくしてなったのだな、と思ったのを覚えています。
そんな彼が「社長の座を追われた」と風の便りで知ったのは数年前。実にたわいないことが大問題となり、社長を辞めざるを得なくなってしまったのです。
社長退任から半年後、彼から連絡をもらい、会うことにしました。そのとき彼が話してくれた内容が実に示唆に富んでいて、皮肉にも「権力」を失った彼が、「権力を悪にする根源の正体」を教えてくれたのです。
「出世は目的じゃなく、決定権という権限を得るための手段だって、いうでしょ? 長年、1つの組織でサラリーマンやってると、役職の差で自分の意見が通らなかったという経験をする。だから、もっと大きな仕事というか、これが必要だって思うことを実行するには、上に行くしかない。私も権限を得るために、社長になることが必要だってずっと思っていたし、『俺は権力が欲しいわけじゃない』って、いつも思っていました。
でもね、権限っていえば聞こえがいいけど、要は権力なんですよ。権限と権力は、似て非なるものというけど、それは理論上の話で、現実は分けられるもんじゃない。だって、実際、社長には権力がある。うん、権力だね。社長に実際になって、その『権力』を痛感しました。
飲みに行けば、頼んでもないのにいいお酒を出してくれるし、社外で接する人間関係も変わる。社長になった途端、手のひらを返したような接し方をしてくる輩は、山ほどいる。みんな権力を嫌うくせに、人は権力に群がるんです。
するとね、何が起こると思う? だんだんと、自分が『法律』になっていくんです。自分がいつも中心になるから、人の話を聞かなくなる。相手を無視して自分の欲求を押し付けるようになる。それをちっとも悪いことだとは思わなくなるんです。
社長をやっていた時は『なぜ、俺の言うことが聞けない?』って思うことが度々あった。いつの間にか傲慢(ごうまん)になるんです。ホント、恥ずかしい話です。でもね、権力は、さらなる権力をもたらす。だから、権力は怖いんです」
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