トヨタがこだわる燃料電池車の未来 増産へコスト削減「100年後、人類は生き残れない」(2/3 ページ)

» 2018年07月27日 06時00分 公開
[ロイター]

<「100年後、人類は生き残れない」>

トヨタがFCVにこだわるのは、EVは航続距離が短く充電は急速でも30分かかり「全ての顧客ニーズを満たすのは不可能」(先進技術統括部主査の河合大洋氏)とみるからだ。FCVならEVより1回の水素充填(じゅうてん)で長く走行でき、充填時間も3分と短い。

航続距離はEVでもコストをかければ技術的には伸ばせるが、約500キロ(日本基準)を走れるテスラのEV「モデルS」の価格は最低でも約800万円台。トヨタはミライの価格を大幅に引き下げ、現在の航続距離約650キロを3代目では「25年までに1000キロ」(別のトヨタ幹部)に伸ばす計画だ。

photo 7月26日、トヨタ自動車が2020年代の燃料電池車(FCV)量産に向けて投資を拡大している。写真は世界初の量産車「MIRAI(ミライ)」の開発責任者、田中義和氏。愛知県豊田市の本社で5月撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)

水素は同重量では電池よりも多くエネルギーを蓄えることができる。現在は石炭火力などに依存する電気と比べ水素は地球上に無限にあり、エネルギー資源の少ない日本ではエネルギーの多様化という点でも期待される。トヨタでFCVの開発が始まったのは1992年。「FCV技術を完成させないと、人類として50年、100年、生き残れないとの思いで開発してきた」と田中氏は語る。

FCVにこだわる理由は他にもある。関係者によると、各社が一斉にEV生産に傾けば、コバルトなどの電池材料が不足するとトヨタは想定している。EVの最大需要国である中国でも各地でFCV開発の動きが広がっており、将来的に世界のFCV市場で覇権を握ることができるとの思惑もトヨタにはある。

米調査会社ストラテジック・アナリシスの推定によると、最も高価な部品であるFCスタック1個の生産にトヨタでは約1.1万ドル(122万円)かかる。同社は、トヨタがFCVを年3万台生産すれば、量産効果でスタック1個当たり約8000ドルまでコスト削減できるとみている。

また、特に高額な白金は使用量を「10―20%減らしても同じ性能を発揮できる」(トヨタ子会社キャタラーの市川絵理氏)技術に成功している。ストラテジック・アナリシスによると、スタック1個当たりの白金使用量を約30グラムとの前提で試算すると、次期ミライのスタックでは最大300ドルの材料費を削減できるという。

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