ヒトオシ
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» 2018年08月22日 07時30分 公開

自動で芯が出てくる:「1本3000円」のシャープペンをヒット商品にした、“近寄りがたさ” (3/4)

[加納由希絵,ITmedia]

1回のノックで「走れメロス」を書き切る

 技術者たちの姿や言葉から感じ取った「技術のすごさ」と「思い入れ」を伝えるために、どうすればいいか。まず考えたのは、「技術がどれだけすごいのか、可視化して示すこと」だった。実際に使ったときに、どのくらい書けるのか。本当にノックしなくていいのか。それを一目で実感してもらうために使ったのが「小説」だ。

 そのお披露目の場となった業界関係者向けの展示会。ブースでは、28点もの部品を一つずつ展示し、「自動芯出し機構」などの技術を紹介。そして、展示の最後に貼り出したのが、手書きで全文を写した小説『走れメロス』だった。

 これは、オレンズネロ(0.3ミリ)を1回だけノックして、どれだけ文字を書けるか実験したものだ。飯塚さんが約1万字、途中でノックすることなく書き切った。「何文字書けます、と言うよりも、実際に書いて見せた方がすごさを実感できると考えました」。展示を見た人たちからは「こんなに書けるんだ」などと大きな反響があったという。

 「スペックを説明するのではなく、ストーリーを伝える」ことに手応えをつかんだ飯塚さんは、技術者たちに思いを直接語ってもらおうと考えた。スペックを知り尽くす彼らだからこそ、それを生み出した裏側にある試行錯誤や葛藤などを語れる。そう確信していたからだ。

 オレンズネロの特設サイトには、オレンズネロが生まれたきっかけや開発の苦労、技術者たちの「誇り」を紹介するページがある。技術者たちの象徴的な「言葉」を強調する構成になっているが、その内容はすんなりと決まったわけではない。「スペックの話ではなく、熱い思いを語ってほしいと何度もお願いしました。そのうちに、語る内容が変わってきたのです。オレンズネロの源流や苦労話などが出てきて、『こんなに面白いことを考えていたんだ』と驚きました」と飯塚さんは振り返る。

 語る側だった開発担当の丸山さんは、技術者が表に出るようになったことで、工場内の変化を感じたという。「話すのが苦手なメンバーも多く、以前は取材などを断ることもよくありました。でも、発信してみると、それに対する反応がたくさんあって、工場の雰囲気もさらによくなったと思います。外部の人が工場に立ち入ることは避けていましたが、工場取材も受けるようになりました」

 思いを秘めて良いものをつくるだけでは、本当の良さは伝わらない。だからといって親しみやすいキャッチフレーズなどに頼るのではなく、技術者自身の言葉を直接伝えることで「すごさ」「かっこよさ」を表現しようとしたのだ。

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