「オリンピックのため」が合言葉のサマータイム、代償は精神疾患と心臓病?河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/5 ページ)

» 2018年08月24日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

体内時計がずれるとどうなるか

 米ハーバード大学などの共同研究グループが看護師を対象に行った調査では、「夜勤」が心身に与える影響が分かりました。

 調査では約7万5000人の勤務状態と健康を22年間追跡(1988〜2010年)。膨大な時間と労力をかけた、信頼性が極めて高い調査が明らかにしたのが、次のような事実です。

  • 22年間で対象者のうち約1万4000人が亡くなり、そのうち約3000人は心臓や血管の病気、約5400人はがん
  • 交代制夜勤がある人は、全く夜勤がない人よりも死亡率が11%高く、なかでも夜勤を6〜14年続けている女性は心臓や血管の病気による死亡率が19%高く、15年以上続けている人は23%も高い

 つまり、生活リズムと体内時計のずれは、慢性的な時差ボケを経験しているのと同じです。内臓は“就寝時間”になっているのに、無理に働くと体がダメージを受ける。それが引き金となり、高血圧、睡眠障害、精神疾患、心臓病などを発症し、「寿命」というコストを支払う羽目になってしまうのです。

 日本でも時計遺伝子に関する研究は進められていて、非常に興味深い事実が分かってきました。

 山口大学時間学研究所の明石真教授らの研究グループによると、「早出と遅出のシフトが1週間ごとに入れ替わるシフト勤務に就いている人の場合、睡眠や食事の時間に7時間ほどズレが生じるのに対し、体内時計の変化は2時間程度」。つまり、5時間のタイムラグを埋めるために、心身は膨大なコストを払わされることになってしまうのです。

 ちなみに、明石教授らの研究グループは、頭髪やひげなどの根元に付着する細胞を採取することで、時計遺伝子の働きを測定できることを発見していました。先の調査でもその知見を生かし、早出や夜勤など勤務の交代制がある職場で働く人たちのひげを3時間に1回採取。毛根の細胞を利用して、体内時計と勤務の関係を調べました。ひげで体の中の動きまで分かってしまうとはあっぱれです。

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