現在、米国において国際宇宙ステーションへの物資輸送など無人輸送サービスは、イーロン・マスク氏率いる米SpaceX等が行っているのは有名だ。他方で宇宙飛行士を輸送する有人輸送手段およびサービスに関しては、スペースシャトル退役後は他国のサービスに頼っているのが現状だ。
こうした状況を打開するために、現在NASAが民間企業との協業で進めてきたのがCommercial Crew Program(商業乗員輸送計画)だ。これまで段階的にサブシステム開発、システム開発とマイルストーンごとに一定の条件を満たさない企業は落とされ、現在進められている最終段階の商業クルー輸送能力(CCtCap)に残っているのがSpaceXとBoeingの2社だ。
Boeingが開発中の有人宇宙船「スターライナー(Crew Space Transportation-100 :CST-100)」は、直近の計画では、無人飛行試験を18年後半から19年前半に行い、有人飛行を19年半ばに行うことにしている。SpaceXの計画よりはやや遅れる形だが、最終的にどちらが先に試験飛行を行うかはまだ不透明だ。
今年8月には、NASA(米航空宇宙局)が両社の宇宙船の試験飛行と、最初のミッションに搭乗する宇宙飛行士9人を発表した。NASAも今回のプログラムにより米国の宇宙飛行の新時代が訪れるとコメントをしており、Boeingによる取り組みにも注目が集まっている
また、同社は近年注目を集める数千機の小型衛星から構築される衛星通信インフラ構築プロジェクトも進めており、2年ほど前、地球低軌道に1396機から2956機の衛星を打ち上げるための周波数申請をFCC(米連邦通信委員会)に行った。同様のプロジェクトはSpaceXが4425機の衛星から構成されるStarlinkを進めている。また、通信大手のソフトバンクが巨額出資した米OneWebも進めている。
しかしながら、グループ会社のBoeing Satellite Systems Internationalの役員が直近「申請は行ったものの、その開発はまだ始まっていない」とコメントするなど、プロジェクトが進展していない様子も伺える。他方、衛星通信大手SESが進めるO3bmPowerという新たな衛星通信インフラ構築では、同社が最初の7機の衛星製造受注を行うことが発表されており、同時平行で様々な可能性を探っている。
新たな宇宙ビジネスではベンチャー企業の動向に関心が集まりがちではあるが、このようにBoeingも着実に適応と取り組みを進めている。今後に注目だ。
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング