ジェフ・ベゾスはなぜ月を目指すのか?宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)

» 2018年06月18日 06時15分 公開

月に人類の恒久的拠点建設

 ロケット開発を進める米Blue Originの創業者であるジェフ・ベゾス氏は5月末に開催されたISDC(International Space Development Conference)において、目指す目標として「人類は月に戻るべきだ。そして今回は(到達するだけでなくて)滞在しなければならない」と語り、月に人類の恒久的拠点を築くことを掲げた。

 同氏は月と地球の距離感、太陽光が24時間降り注ぎ太陽光発電に適したクレーターの存在、ロケットの燃料等に有効活用な水資源の存在、資源として活用可能なレゴリス(粒状の月表面の土)の存在などが、月に恒久的拠点を作るために適している理由だという。

 地球外への人類の移住という考えでは、イーロン・マスク氏と米SpaceXの掲げる火星移住があまりにも有名だ。今回ベゾス氏は「月の恒久的拠点を作らずに火星を目指した場合、仮に成功したとしても、盛大なパレードが行われた後、50年間何も起きなかったアポロ計画と同じになる」とけん制もした。

 ベゾス氏がBlue Originを創業したのは2000年。ITバブル絶頂期の最中、宇宙への思いを密かに抱いてきたことの証左といえる。ただし、長い間何も公表してこなかった同氏と、Blue Originが表立って月を目指す考えを大々的に語り始めたのは近年だ。その背景にあるビジョンは一体何だろうか。

Blue Originが開発を進める大型ロケット「New Glenn」 Blue Originが開発を進める大型ロケット「New Glenn」(出典:公式サイト

重工業は地球外へ

 そのヒントとなるのは、筆者も出席した16年に米国・コロラドで開催された宇宙カンファレンス「Space Symposium」での発言だ。基調講演として登壇したベゾス氏は「数百万人という人が宇宙で暮らし、働けるようにしたい。宇宙までも見据えた文明(spacefaring civilization)にしたい」と語っていた。

 加えて「将来的に地球を救うには宇宙を活用しなければならない。限られた地球資源のためにもほとんどの重工業は地球外に移行し、地球は居住用または軽工業用のための地域とすることを考えている」とも話しており、まさにこの重工業を移転する拠点として今回、月を明確な目標として掲げた格好といえる。

 また同氏は以前「(Amazon創業時には)いろいろなインフラが既にあったが、宇宙にはそういったピースがない。重要なのは今よりずっと安いコストで宇宙へ行けるようになることだ」と語っており、数ある宇宙ビジネスの中でも、ロケットなどの輸送系に対する思い入れが強い。実際、小型ロケット「New Shepard」とBE-3エンジン、大型ロケット「New Glenn」とBE-4エンジンの開発を進めている。

 さらに、今回の月の恒久的拠点建設のためのステップとして、月面に5トンの物資を輸送可能な着陸船Blue Moonのコンセプトも公表済みだ。同じ輸送系ビジネスという意味では、既に商業打ち上げサービスを行っているSpaceXとの間には実績で差分があるが、米国関係者ではBlue Originのポテンシャルを評価する声は多い。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.