11月、1人の日本人が南極踏破に挑戦する。秋田出身の冒険家、阿部雅龍さん(35)だ。これまでも3度の北極探検やアマゾン川のいかだ下りを成功させてきた。今回挑むのは「メスナールート」と呼ばれる日本人未踏破のルートで、単独無補給での南極点到達をめざす。
地球上最も寒冷とされ、氷河の深い割れ目であるクレパスや強烈な向かい風が立ちはだかる過酷な南極。阿部さんはトレーニングや装備の準備以外に、日本にいる間に腐心していることがある。冒険の資金集めだ。
数カ月にわたる今回の南極冒険にかかる費用は約1250万円。メディアでは「職業:冒険家」として紹介されることの多い阿部さんだが、冒険に行くことでお金がもうかるわけではなく、逆に遠征のたびに莫大な出費を強いられる。冒険に行っていない1年の半分は東京・浅草などで人力車夫として働き、生活費や冒険費用の一部をねん出しつつ支援者を募っている。
「南極は寒くているだけでダイエットになります」。冒険の目的地の過酷さを阿部さんが面白おかしく説明するたびに来場者がどっと沸く。10月2日に東京都板橋区で開かれた南極行きの壮行会には約200人が詰めかけた。スライドで遠征について説明し、老若男女問わず支援者との記念撮影に応じる。
自分で稼いだお金に加えてこうした後援会事務局も携わる集会やクラウドファンディング、企業や個人からの寄付などで冒険資金を賄っている。10月上旬現在でまだ約200万円不足しているが「借金してでも行きます」と決意は揺るがない。ちなみに今回の遠征にかかる約1250万円のうち、1000万円はチリと南極大陸を往復する航空料金のみに費やされる。
極地遠征で生死を左右する装備も高額なため、支援企業から提供してもらうことが多い。セイコーウオッチからは登山家や冒険家仕様の時計を、ソニーからはカメラといった具合だ。遠征用のソリは町工場の従業員たちが製造資金をかき集めて作ってくれた。
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