企業や個人からの支援を募るために阿部さんは営業マン顔負けのアプローチ方法を磨いてきた。支援をお願いしたい会社の代表電話に掛けると、まずは広報につないでもらい担当者の名前を聞く。その人にはメールでなく手書きの手紙を送る。その後、「広報の〇〇さんをお願いします」と電話すると話を聞いてもらいやすくなるという。「(紙に印刷された)ダイレクトメールなら無視されやすいが、手書きの封筒なら開けない訳にいかなくなる」(阿部さん)。
30歳くらいのときには自己PRの力を磨くため企業の決算発表用の動画を制作するPR会社でアルバイトした。「僕には地位も肩書もない。話す力がとても大事」とビジネスマン向けの講習会に出たり、人気スピーチフォーラム「TED」やチャップリンの演説風景を見て人に印象に残るスピーチを研究したこともある。
今や支援者は企業にとどまらず個人にも広がる。「定年退職したサラリーマンの方がポンと10万円だしてくれたり、人力車に客として乗ることで支援してくれるファンも少なくない」(阿部さん)。
ただ、他の日本の冒険家や登山家が大口のスポンサーを付けた上で複数人の遠征隊を組むことが多いのに比べ、あくまで単独で冒険も支援者集めもこなす阿部さんのスタイルは少し異端だ。「単独の南極遠征では荷物をできる限り減らす必要がある。予備の装備もなかなか持っていけないためテントを飛ばされただけで死ぬ」(阿部さん)。個人での冒険は危険性も資金の負担も集団より格段に高まる。
しかも、プロ登山家の多くが普段はアウトドアショップの店員や登山ガイドとして生計を立てているのに比べ、阿部さんのもう1つの仕事はフリーランスの人力車夫。秋田大学を卒業後、企業で正社員として働いたことはない。「会社勤めの身で遠征は難しい。僕は冒険のことだけ考えて生きていたい」と、自身の後援会を除き組織には属さない。
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