ECから撤退して店舗を強化するドンキの狙い小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)

» 2018年11月20日 06時30分 公開
[中井彰人ITmedia]

消費者には支持されていなかった

 こうした経緯を思い返してみると、消費者向けのビジネスをする企業が、忘れてはならない重要な教訓に思い当たる。それは、今、自分の店が繁盛していたとしても、お客さんは必ずしも自分の店に満足してくれているとは限らない、という恐ろしい現実である。

 総合スーパーや昔の住宅地の小さいスーパーもある時期までは繁盛していたが、消費者は機動力がないため我慢して使っていたに過ぎない。しかし、店からすれば、繁盛しているのだから、消費者に支持されていると思うのは、ある意味当然だろう。

 そして、時代が進み、制約がなくなったとき、消費者は馴染みの店を切り捨て、もっと便利な、好みに合った店に冷酷に乗り換える。かつての繁盛店は、その時初めて、自分の店がお客さんに我慢を強いていたことに気付くが、たいていの場合、後の祭りである。

 商人は自らが、例え成功していたとしても、消費者がどのような理由で、他社と比較して自らの店を選んでくれているのかを、冷静に分析しておく必要がある。特に、どんな制約を前提として選択肢に残しているかが重要だ。そうすれば、今後予想される環境の変化や、技術革新が起こった場合、自らの店にどのような影響があるのか、ということをある程度考えることができるはずだ。

ECが小売の主流になった

 そして、今はインターネットという技術革新の波が、現在の勝ち組である店舗型専門店チェーンをも脅かし始めている。ここで改めて書くまでもないが、ネット空間に商業のバーチャルな立地を開発したEC(ネット商取引)は、リアル店舗の時間的・空間的な制約を解消する革命的な技術革新であり、いつでもどこでも買物ができる環境が整いつつある。

 物理的な商品の移動がないサービスや、コンテンツ系の世界(旅行、本、音楽、チケット等)は、既にECが主導権を握っており、配送環境がより整備されていけば、商品に関してもさらにECへのシフトは進むことが確実とされる。今後、急速に浸透するであろうVR(バーチャルリアリティ)、AR(拡張現実)といった技術が、ECにおける現在の制約をさらに解放することを考えれば、ECが小売の主流となることは誰もが認める方向性であり、リアル店舗小売の市場が縮小するのを否定する人はいない。

 こうした中、大半のリアル店舗小売が行う対策は、自社ビジネスのEC化という政策であり、各社ともECへの参入を進めているのが一般的であろう。しかし、リアル店舗小売のECサイトが、EC企業のサイトより売れているとか、イケているといった話を実際に聞いたことがない。リアル店舗を守りながら、片手間でECに参入してうまくいくほど甘くはないと本当は分かっていながらも、やらざるを得ないというのが本音なのではないか。

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