高級すし店「銀座 久兵衛」が、テナントとして入居する「ホテルオークラ東京」(東京都港区)に対して1000万円の損害賠償を求めるという、前代未聞の訴訟が波紋を呼んでいる。訴状によると、久兵衛は1964年の同店開業以来、メインエリアで営業してきたが、建て替え中の新ホテルでは別棟にあるアーケード街の片隅を指定されたとして、高級店の信用を傷つけられたのを不満としている。
高級店にふさわしくない“格落ち”の場所に移されることで経済的損失が生じるという言い分が通るかは疑問だが、蜜月関係にあった双方にどうして確執が生じたのかを考察したい。
ホテルオークラのブランドは、帝国ホテル、ホテルニューオータニ(どちらも東京都千代田区)と共に“御三家”と称されてきたが、近年は外資系の相次ぐ進出で国内最高級ブランドとしての地位がぐらついている。そして、凋落(ちょうらく)を防ぐとともに、再び頂点に立つ第2の創業として、今回の建て替えに社運をかけている。
その中で、日本のホテルならではの“和食再構築”は、外資系との差別化を実現する重要な役割を担う。旧来の延長線上では、もう競合に勝てないと判断したと考えられる。弾き出された久兵衛は建て替え後も、従来通りの店構えを継続したかったのだろう。
久兵衛に危機感がなかったわけではない。近年、高級すし店の新鋭が続々と台頭しており、江戸前ずしの最高峰とされてきた久兵衛の地位が揺らいでいるからだ。ホテルオークラ東京でメインエリアを外されたとなると、ますますイメージが低下しかねないと危惧しているのだ。
つまり双方共、「雲の上にある超高級な存在」という世間が抱くイメージと異なり、没落する一歩手前の崖っぷちまで来ているため、譲り合えない騒動につながったのである。
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