増加する「認知症」と「資金トラブル」、対応迫られる金融機関保有資産は215兆円(3/3 ページ)

» 2018年12月18日 07時00分 公開
[ロイター]
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<対応に動き出した金融機関>

生活に不可欠な「お金」を取扱う金融機関は、認知症の患者と接する機会も多く、野村証券や三井住友信託銀行など、一部の金融機関では、社員に対する認知症対応のための研修を始めた。

「今までは、証券会社などの窓口の人が、独自に判断していた場合がほとんどだったと思う。金融機関の人と、医療的な立場の人が場を持って、知識を共有するということが重要になってくる」と慶應義塾大学医学部の三村將教授は言う。

また、城南信用金庫など都内の5信金では、認知症支援のためのNPO団体「しんきん成年後見サポート」を設立した。認知症の患者を家族に抱える預金者などの相談に応じる一方、品川区と協力しながら、成年後見人を請け負うサービスを実施している。

成年後見人制度は、介護保険と同じく2000年に導入されたものの、使い勝手が悪いとの声が多く、利用率は低い。

さらに後見人の監督に目が行き届いておらず、後見人が被後見人の資産を盗む、などの事例も後を絶たず、改善が要望されている。

内閣府の資料によると、2015年までの5年間で、3000件以上の不正が報告され、被害総額は210億円に及ぶ。

しんきんサポートでは、担当者を必ず複数にし、抜き打ち検査を行うなど、金融機関と同水準の厳格な内部管理をして不正を防止するようにしているという。

「人員を複数配置することで、コストも2倍になるが、私たちは必要なコストだと考えている」と、しんきんサポートの平森均事務局長は語る。

ただ、このサービスを営利事業として行うのは難しいという。

テクノロジーを使って、認知症の早期発見に取り組もうとしているのは、家計簿支援アプリなどを手掛けるフィンテック企業のマネーフォワードだ。

例えば、ある利用客が突然ATMから頻繁に現金を引き出すようになった場合、認知症の可能性もある。そうした場合に、それを親族などに伝える、という仕組みを開発中だ。

認知症を治す治療法は、まだ見つかっていないが、早期発見で進行を遅らせることは可能になりつつある。こうしたサービスがあれば、認知症とともに生きる人達の助けになりうる。

「認知症といっても、常にすべて何もできないわけではない。財布は使わなくなっても、一緒に旅行にも行ったし、写真も撮ったり、ということはできていた」と大久保さんは語る。実際2012年から合計3年かけて、大久保さん夫婦は東海道を歩いて制覇したという。

「今の生活は、昔思い描いていた退職後の生活とは確かに違う。でも、いま私がつきあっているのは、妻が認知症になってから、それを通じて知り合った人たちばかり。だから、今の私があるのは彼女のおかげだと感じる」──。

(佐野日出之 編集:田巻一彦)

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