「パンが好き」とみんなが言い始めた 平成のパンブームの正体個性的な店が生まれたワケ(2/4 ページ)

» 2019年01月03日 08時50分 公開
[加納由希絵ITmedia]
photo 「個人店」が注目されるように(写真は記事と関係ありません)

 その状況を自分で何とかしようとしたのが、当時の“パン好き”の人たち。パンについて語り合い、情報交換をして楽しむための団体が増え、独自に会報発行などの情報発信をするように。なかには、パン好きの個人の集まりから始まったにもかかわらず、全国に会員を持ち、業界で有名になったサークルもある。その流れが大きくなる中で、雑誌などでもパンの特集が組まれるようになった。

 そのころから、有名店から独立したオーナーによる「個人店」が注目を浴びるようになる。ドンクなどが技術を持った人材を輩出したことも、ハイレベルなパン屋の増加を後押しした。「“巨匠”の時代です。『海外で○年修業したオーナーシェフ』といったストーリーを消費者が求めるようになっていきました」

「素材を選ぶ」考え方が広まる

photo パンの研究所「パンラボ」を主宰するパンライター、池田浩明さん

 その後、着実に“パン好き”の熱が高まってきたが、池田さんが「本当の盛り上がりはここから」と指摘する出来事がある。それは2013年、ベーカリー「365日」が東京・代々木八幡にオープンしたことだ。

 この店のオープンを特集した雑誌がよく売れたこともあり、雑誌の「パン特集」は完全に定着。かつてのスイーツ特集に取って代わって定番テーマになった。

 人気店となった365日の特長は「素材」だ。店名の通り、毎日食べてもらうために、国産小麦など「体にいいものを使う」というコンセプトが受け入れられた。「大手製粉メーカーから仕入れた材料を使えば、安定した品質を保てますが、個性を出しにくい。同じ材料で完成度を高めていくのが“巨匠”の技でした。しかし(365日が人気になることで、)国産小麦など素材の持ち味を生かした個性的なパンが消費者に求められていることにみんなが気付きました」と池田さんは話す。

 主な材料である小麦粉も変わった。品種改良によって、パンに合う国産小麦の生産が増え、選択肢が増えたのだ。材料などを工夫するセンスさえあれば、修行経験がなくてもおいしいパンを作れるようになった。「素材にこだわった店」がこれまでにない個性を放ち始めたのだ。

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