連載
» 2019年05月21日 07時07分 公開

専門家のイロメガネ:トヨタ社長が「終身雇用は難しい」と言っても、やっぱり「終身雇用」が必要な理由 (4/4)

[榊裕葵,ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

年功序列賃金を前提とした「若い頃の苦労」が報われない

 第4は年功序列の問題です。年功序列の賃金体系は以前より薄まってきていますが、まだまだ大手企業を中心に色濃く残っています。

 若手の頃は自分の働きや貢献よりも少ない賃金で頑張ってもらう。そして年齢とともに給料が上昇する。そんな形で、約40年間を通じてトータルで考えれば損することはないという賃金体系です。

 退職金も勤続年数が少ないうちは微々たるもので、勤続年数が長くなるにつれ二次関数的に上昇する設計の企業が少なくありません。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 このような賃金体系のまま40代や50代でリストラされてしまうと、若手の頃に頑張ったときの「未払い賃金」を回収できないまま会社を追われ、退職金の計算でも不利益を受けてしまうことになります。

 もし終身雇用を放棄するのであれば、その前に賃金体系を見直して、年齢や勤続年数ではなく、実際に従事している職務に応じた賃金が支払われる「職務給」をベースとした賃金体系への移行、退職金も勤続年数の長短で不公平が出ないような制度設計にしなければ不公平・不誠実ということになるでしょう。

 日本でも成果主義の賃金が望ましいという考え方が近年は主流になりつつありますが、まだまだ年功序列の考え方が日本企業の賃金体系に強い影響を残しています。年功序列の賃金体系と親和性の高い終身雇用の考え方を捨てるのには、やはり慎重な検討が必要なのではないでしょうか。

終身雇用の放棄に向けてやるべきこと

 本稿では、ここまで終身雇用を擁護するような書き方になっていますが、筆者は全面的に終身雇用を維持すべきと言いたいわけではありません。

 日本独特の終身雇用制度が、グローバル競争の中で足かせになってしまうこと自体は否めない事実です。しかしこれまでの日本企業の雇用慣習を考えると、突然社員を「いばらの道」に放り出すような、終身雇用の激変的な廃止は望ましくないということです。

 企業が終身雇用を放棄するならば、ある程度時間をかけてでも、社員が他社に行っても通用するようなキャリアプラン構築の支援を行ったり、副業を容認して多様なチャレンジを認めたり、賃金制度を再構築したりと、多様な働き方を選べるようにしていくべきです。こうした取り組みで激変を緩和し終身雇用を発展的解消させることが、一社専属型で働いてきた社員に対する責務ではないでしょうか。

 そして社員側も、会社が無条件に雇用を維持したり、給与を支払ってくれたりするとは考えず、あくまでも社員1人1人の積み上げが会社の売り上げであり、自分の雇用を守るためには、自分も「当事者」の1人であるという意識を持たなければなりません。

 言い換えれば「会社VS. 社員」の対立構造ではなく「会社=社員の集合体」という考え方にシフトチェンジして、どこへ行っても通用する人材になるよう自己啓発に努めなければならないということです。

筆者:榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人マネージング・パートナー 特定社会保険労務士・CFP

上場企業の経営企画室等に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立。勤務時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事。近年はHRテック普及支援にも注力。

企画協力・シェアーズカフェ・オンライン


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセスランキング
  • 本日
  • 週間