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トヨタ社長が「終身雇用は難しい」と言っても、やっぱり「終身雇用」が必要な理由専門家のイロメガネ(3/4 ページ)

» 2019年05月21日 07時07分 公開
[榊裕葵ITmedia]

副業は「ご法度」だった日本企業

 第2は日本企業が副業を認めてこなかったということです。

 直近では厚生労働省のモデル就業規則が「副業容認」に変化するなど、徐々に副業に寛容になりつつあります。しかし長きにわたり、社員の副業は原則禁止というのが多くの日本企業の常識でした。株式投資や不動産投資を行うことさえ、場合によっては会社からネガティブに見られていました。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 しかし社員の側から見れば、副業を行って会社からの給料以外の収入があれば、失業時のリスクを低減できます。副業を通じてビジネススキルを養ったり、副業の人脈が新たな仕事を探すきっかけにつながったりする場合もあります。

 働き方改革以前の日本企業は、残業を含めた長時間労働で社員を拘束することも珍しくありません。さらに都市部では通勤時間も長くなる傾向にありますから、そもそも副業をしたくても時間的・体力的にその余裕がなかったり、会社以外に人脈を作るチャンスにも恵まれなかったりという人は少なくありません。

 このような環境に置かれると、社員は自分の勤めている会社の給料や人脈が唯一絶対的なものになってしまいます。ですから副業を認めてこなかった日本企業の経営方針が、社員が終身雇用を望む一因になっていることを忘れるべきではないでしょう。

住宅ローンは終身雇用が大前提

 第3は住宅ローン問題です。多くの会社員の方が30年や35年のローンを組んでマイホームを購入しています。これは終身雇用を前提として長期間にわたって安定的にローンを返済できることが大前提です。失業することはもちろん、転職して収入が下がることも住宅ローンの返済に対して大きなリスクとなります。

 終身雇用と住宅ローンの返済は密接な相関関係をもっており、住宅ローン返済中の社員にとって、終身雇用が崩壊することは生活の崩壊に直面する大きなリスクとなります。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 会社が金融機関と提携して社員用の住宅ローンを用意したり、「家を買えば腰を落ち着けて仕事にはげめるので、君もそろそろマイホームをもってはどうかね」と上司が助言したりするなど、会社が積極的にマイホームの取得を後押ししてきたという側面もありました。終身雇用の崩壊により、社員が住宅ローンの返済に行き詰まることに対しては、会社の責任も皆無でないということになります。

 さらにいえば、このような住宅ローンの組み方を容認してきた日本社会が終身雇用をやめる方向に突き進むのは、多くの会社員が返済に行き詰まり、社会問題に発展する恐れがあります。

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