自動車を売るビジネスの本質 マツダの戦略池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2019年07月08日 07時07分 公開
[池田直渡ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5       

ディーラーリニューアル

 もちろんこれ以外にも、ディーラーサイドでのブランド戦略なども推進中で、店舗のデザインリニューアルや、高いモチベーションを持って働ける職場への働き方改革なども行っている。こちらはマツダ自身が遅れている分野と自覚しているので、まだまだ改善の余地があるだろう。

2014年度からマツダは新世代店舗としてディーラーの改装に着手している

多くの会社がブランド価値向上をうまくできない理由

 改めて書くまでもないが「お客様の大切なクルマの価値を守る」は、つまりブランド価値向上である。こういう取り組みをマツダは実行し、日本ではその戦略をほぼ成功させた。結果オーライでブランド価値が高い偶発的ケースではなく、戦略を立て、低かったブランド価値を人の力で向上させたという観点で見れば、それはマツダにしかできていない。

 それをできる会社が少ない理由はなんだろうか。筆者の目から見れば、日本企業の共通の課題としてセクショナリズムがあるからだ。他の部署が取り組んでいる問題について、興味がないか、あったとしても、どうコミットすればいいかが分からない。仮に「あれ俺も参加したらこういうことができる」と思ったとしても、それを実行に移せる形、つまり部署間に横串を通して共有したり共闘したりできる組織になっていない。そこにこそ問題の本質がある。

 一体マツダはなぜそんなことができたのか? マツダの常務執行役員の福原和幸氏にその勘所を尋ねた。福原氏の答えはこうだった。

 「一番大きいのは考え方をひとつにしたことです。過去の反省も含めてお客様に安心してクルマに乗っていただいて、大事な資産を高い価値で維持していただく。そのために営業領域で何をするのか? その考え方を統一しました。これをマツダ営業方式というのですが、仕事をする上での価値観をみんなひとつにしようよと、そういう活動を2012年より前からやっているんですね。マツダに関わる全ての人がどうやったら幸せになれるかというところから、全てが始まっています」

 「具体的には、お客様にとっても、販売会社にとっても、マツダ本社の人間に関しても、マツダに関わる全ての人が幸せになるためにどうしたらいいのか、をずっと考えてきたんです。そういう活動で、みんながひとつになれたのかなぁと思っております。それによって各部門が目指しているゴールがひとつになって、保険をやっている部門、中古車部門、サービス部門、そういういろんな部門が、本当にマツダのリセールバリューを高めるために、それぞれの領域で何をやっていくのかを考えてくれました。もちろんトップダウンで方向性は示しましたが、みんなが『そうだよね。今までのマツダから変わらないとダメだよね』と、ひとりひとりがそこを理解して動いてくれたということなんです」

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.