Mazda3に見るマツダの第7世代戦略池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2019年03月11日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
マツダが「冬の陣」と呼ぶ剣淵テストコースでの雪上試乗会。2019年の主役はMazda3 マツダが「冬の陣」と呼ぶ剣淵テストコースでの雪上試乗会。2019年の主役はMazda3

 毎年冬、北海道上川郡剣淵町のテストコースで開催されるマツダの雪上試乗会にMazda3が用意された。筆者はすでに北米での試乗会で運転して、十分以上に驚いた後なのだが、さらにもう一度驚かされた。北米の記事を書いた時、「池田はいつも驚愕しているな」とコメントされて苦笑いしたが、まあその通り、マツダには本当に毎度驚かされる(関連記事:新型アクセラの驚愕すべき出来)。

 さて、最初にエンジンについて残念なお知らせだ。今回もまたSKYACTIV-Xは登場しなかったし、期待の1.8ディーゼルも助手席で、というか正確には助手席の代わりに取り付けられたグラグラ動くシートで、しかも時速10kmで数百メートル乗っただけ。ハンドルを任されたのは北米仕様の2.5Gと2.0Gだった。

人間中心を突き詰めるということ

 さて、気を取り直して本題に戻ろう。何に驚いたかの話だ。驚愕は大別して、クルマそのものの出来と、そこへたどり着くプリンシパル(原理・原則)の両面だった。まずはそのプリンシパルの方だ。テーマは「人間中心」。正直「人間中心」という言葉そのものはもうありふれていて、この世のどこにも「ウチは人間中心なんて考えていません」と言うメーカーはない。どこだって言う。「あーそうですか」という感想しか浮かばない。

全ての起点として再定義された「人間中心」 全ての起点として再定義された「人間中心」

 ところが、マツダは違った。クルマの運転は「認知・判断・操作」の3段階で行う。これはもう定理であって、これ以上分解できない素数のようなものだと思っていた。しかし、マツダはその素数だと信じられていたものをさらにもう1回開いて見せた。筆者はそれに完敗した。「すごい」と同時に「やられた」と思った。

 「人間中心があってこその、認知・判断・操作です。人が人間工学的に理想的な姿勢をとったときに、認知能力も判断能力も操作能力もより高いレベルで発揮できるのです」

 シートが大事とか、操作系のフィールが自然であることが大事とか、視界が阻害されないことが大事とか、騒音や振動がストレスにならないことが大事とか、そういう個別の大事な事象を全部束ねる言葉こそが「人間中心」であったとマツダは言うのだ。

 例えば、階段を上がるとき、ガニ股にして足首より外側に膝がはみ出すフォームで上がろうとすると、一歩ごとに勢いをつけて「えいやっ!」と階段を上がることになる。しかし、すねをまっすぐに立てて、足首の真上に膝が乗るフォームだと、筋力負荷を最小にしつつ入れる力をコントロールしながら階段を登れる。もちろん前後左右に足首が動く余裕もあるので、バランスも取りやすい。

体幹の筋肉をトレーニングするためのグラグラするシートを助手席に据え付けてゆっくり走る。現行アクセラと新型Mazda3を比べると腹筋の負担が明らかに違う。シートだけでなくシャシーも体幹の筋肉への負担を減らしている 体幹の筋肉をトレーニングするためのグラグラするシートを助手席に据え付けてゆっくり走る。現行アクセラと新型Mazda3を比べると腹筋の負担が明らかに違う。シートだけでなくシャシーも体幹の筋肉への負担を減らしている

 クルマの運転も筋力を使って行う以上、骨と関節と筋肉の構造にとって正しい姿勢を取ることで早く正確な操作ができる。

 今回、雪上路でマツダが用意した1つのプログラムがある。積雪の林道を周回するにあたって、1回目は新型Mazda3の白眉とも言える素晴らしいシートに普通に座り、2回目はわざとお尻を前にズラしてだらしなく座ってくれと言われた。同じコースを走って、ステアリング操作や視線移動を室内に設置されたカメラで撮影し、かつステアリングの入力変異グラフや前後左右の加減速Gのグラフと照らし合わせるという実験だ。

 予想通りといえば予想通りだが、だらしなく座ると操作が雑になって、ステアリングもアクセルもブレーキも補正操作が多くなる。つまり1度でピシッと操作できず、切りすぎ踏みすぎからの戻しや再入力が増える。長時間になればそれが蓄積して疲労となり、操作精度を落としていくことになるのは当然だろう。

 それ以前に首や体幹が自由に動かないので、状況把握能力が落ちるし、タイヤの滑りを感知する能力も落ちる。つまり運転に際して、人体はそれ自体がセンサーであり演算回路であり、アクチュエーターなのだから、その固定に細心の注意を払うのは、言われてみれば当然だ。

 良いクルマとは何か? マツダはそれを人間起点で考え直した。認知は目と三半規管と体幹の筋肉で行われる。頭がしっかり正立してぐらつかないこと。だとすれば、それをスタビライズする体幹の筋肉が自由に動ける状態で上体を支持すること。そして体幹の筋肉の基盤となる骨盤を座面で確実にホールドすること。これが全ての始まりだ。

 タイヤからの入力を混濁させることなく骨盤に伝えることに留意した。マツダは振動のピークを叩くことをプライオリティの1位にするのを止めた。むしろ振動を引きずって長く揺れることを問題視し、シャシーを高剛性化して、振動が別経路を通って遅れて入ってくることを防ぐ設計とした。さらに閉断面に竹の節に似た閉断面構造を入れ、そこに振動を集めて内部減衰の高いボンドで熱に変換している。

 昔から、自動車評論の世界では、「多少鋭い入力があっても短時間にすっきり収まれば気にならない」と言われてきた。マツダはそれを分析し、メソッド化してみせた。揺れが長く複雑だと、体幹の筋肉が長時間負荷を受ける。だから疲れるしバランスが取りにくくなる。

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