Mazda3に見るマツダの第7世代戦略池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2019年03月11日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

人の感覚にとって自然に曲げる技術

 さて、今回は技術の主役が3つある。1つはこれまで述べた「人間中心」。2つ目は「GVC Plus」だ。筆者の親しい友人が最近CX-8を購入した。彼は「GVC Plusが効いているのかどうか全然分からない」と言うがそれで良い。分からないように制御するのがGVC Plusの狙いなので、それは褒め言葉なのだ。

FFながら雪の上でタイヤをしっかりグリップさせて走るMazda3セダン FFながら雪の上でタイヤをしっかりグリップさせて走るMazda3セダン

 まずは前身であるGVCから説明しよう。GVCは「G-Vectoring Control」の頭文字で、必要な時にフロントに荷重をかけてアンダーステアを消す技術だ。四輪車は前輪が曲がる仕事を後輪が直進する仕事を司る。ハンドルを切っても前輪の荷重がゼロなら曲がらない。例えば、舵角に対して本来発生する横力が足りないとすれば、それは前輪荷重が足りていないのだから、エンジンブレーキで前輪に荷重を掛けてやれば本来の横力を発揮する。これがGVCの仕組みだ。

 マツダの面白いところは「曲げる力をたくさん出す」のではなく「本来の力が出ていない場合、理想的な状態に戻す」のを狙っていることだ。つまりクルマ本来の実力通りに曲げてやることであって、実力以上に曲げることではない。

 それに対してGVC Plusは何が追加されているかというと、片側前輪へのブレーキ作動だ。近年多くのメーカーが片輪ブレーキを曲げることに使っている。筆者の経験から言うとこれはあまり自然な結果を生まない。

マツダ自慢のGVC Plusのおかげでとにかく舵がよく効く マツダ自慢のGVC Plusのおかげでとにかく舵がよく効く

 各社によって制御ロジックは多少違うが、原理的に見てみると、いろいろと不自然になる要素があるのだ。まずコーナーの進入でブレーキを残すと、片輪ブレーキは制動に上書きされて機能しない。そこからブレーキを離すと片輪ブレーキが効いてグイッと曲がり、コーナー後半では曲げる必要が薄れるため片輪ブレーキが解除される。場合によってはそこでステアリングを切り増さなくてはならなくなる。

 つまり、舵角に紐づいた横力と全く違う要因で横力を発生させるため、横力の発生源が2系統になり、その総和が横力になる。ところが、片輪ブレーキは人が操作した結果ではないから、ドライバーが関知しない。プログラムがいきなり仕事を始めたり止められたりすると、その差分はドライバーが舵角で調整してやらなければならなくなる。

 GVC Plusの制御はロジックが全く違う。ステアリングを戻したとき、曲げ力を消す方向で片輪ブレーキの微小制御を入れる。クルマを曲げるのではなく、直進に戻す方向で片輪ブレーキを使うのだ。そういうタイミングで片輪ブレーキを使うと、縮んだばねの反力で前輪が浮き上がることを抑えられるので、荷重が安定するとともに、車両姿勢が安定方向へ早く戻る。だからダブルレーンチェンジのような急激な切り返しで段違いで挙動が安定するのだ。

冬の間、町営の林道を閉鎖してマツダの冬季テストが行われる。路面は凸凹の半圧雪路 冬の間、町営の林道を閉鎖してマツダの冬季テストが行われる。路面は凸凹の半圧雪路

 氷や雪の上でジムカーナ的なことをやったことがある人ならご存じの通り、ダーッと滑り始めるのは曲がり始めか脱出時だ。入り口では減速が足りずにアンダーが出て、出口ではアクセルオンが早すぎてアンダーが出る。GVCはこの入り口側の問題を、そしてPlusで追加された機能は出口側の問題を解決した。

 その結果、Mazda3は、ただのFFにもかかわらず、スタッドレスさえ履いていれば全くなんの支障もなく雪道を自在に走り回ってみせた。ペアを組んでテストを回った某一流レーシングドライバーが「四駆いらないよね」と言った言葉が全てを物語る。

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