サブスクは音楽を生かすのか、殺すのか――電気グルーヴ配信停止も波紋AWA社長に直撃(2/3 ページ)

» 2019年07月11日 07時40分 公開
[服部良祐ITmedia]

日本人は音楽を「所有」したい?

――確かに、日本で多くの音楽定額配信のサービスがスタートした「サブスク元年」と言われたのは15年で、欧米に比べ出遅れたという見方もあります。ただ、CDを買ったりレンタル店で借りてデータを落として聞く動きも、減ったとはいえ根強いです。音楽を「所有して聴きたい」欲求は、日本人に特に強いという見方もありますが。

小野: 僕は、「日本人」というくくり方はナンセンスだと思います。僕個人は所有欲求が無いですし……。本もCDも全部捨ててしまい、雑誌も買わなくなりました。CDが自宅にたくさんあることの煩わしさは、徐々に大きくなってくると思う。

 どちらかというと、その(サブスクという)文化が浸透するまでの話、時間が変えていくのではないかとイメージしています。車だったら、カーシェアやリースが流行っていますよね。それが根付けば、「車の所有」という概念が日本から離れるようになる。

 所有欲求とは人それぞれで主観が違うので難しいのですが、僕は人が経済合理性の高い方に向かうと思っています。今の若い人たちが「車やテレビを買っておく意味が分からない」と言うように、ニュージェネレーションはどんどん所有欲求が無くなってきている。

 「(ある曲は)絶対に一生、聴き続けたい」という感情は残ると思いますが、それは「所有」するかどうかとは関係ないと思います。

ピエール瀧氏逮捕による「電気グルーヴ」配信停止

――印象に残っているのが、ピエール瀧氏の逮捕による電気グルーヴの楽曲の配信停止です。音楽を「所有」していないと、聴きたい曲をある日突然、聴けなくなるという恐怖が反対の署名活動にもつながったと思うのですが。

小野: もちろん、(好きな曲は配信から)消えてほしくないですよね。あの時、(電気グルーヴの曲は)iTunesからも消えていて、新規で購入ができなくなっていました。以前に曲を買っていた人はいいけれど、きつい人はいると思います。僕も「音楽に罪はない」と思いますし。

 結局、(楽曲の)権利者がどう判断するかということに尽きてしまいます。もちろん犯罪は駄目なことですが。ただ、(問題のあったアーティストの曲も)消さないようにすべきだし、感覚的な話ですが、(今後は)消さないようになっていくのでは、と思います。

 そもそもなぜ消すのかと言うと、企業のコンプライアンス、リスク排除のためです。一部の人は「なぜ犯罪者の音楽が聴けるのか」と圧力をかけたりするものですが、ふたを開けてみると(今回は)「なぜ消したんだ」という声の方が大きかったと思う。権利者の方々にとっても、考え方に示唆が生まれたのではと感じます。

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