“上司なりすまし”被害も 深刻化する偽動画「ディープフェイク」の脅威世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2019年07月25日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

 ディープフェイクはさまざまな問題を抱えている。名誉毀損、肖像権や著作権の侵害などを問題視したレディットは、ディープフェイクの投稿を直ちに禁止にした。さらに、ディープフェイクの動画がアップされた米大手ポルノサイトやTwitterでも禁止になっている。

 ディープフェイクはその後、技術の改善が続けられ、さらにクオリティーの高い動画を作ることができるようになっていった。エンタメの分野でも、個人がこの技術を使って動画を作り、メディアに取り上げられることも多々あった。人気ホラー映画『シャイニング』に登場する主役、ジャック・ニコルソンの顔を、有名俳優のニコラス・ケイジに入れ替えた動画が話題になったこともある。

 また、米国のバラク・オバマ前大統領がホワイトハウスとおぼしき部屋で座ってスピーチをしている映像が公開されたが、実はその表情と口元は、あるコメディアンの顔の動きと同じになるように、AIで顔が操作されていた。本物のオバマが決して言わないような暴言すら吐いていたが、これはコメディアンがオバマの顔を使って述べたものだったとして話題になった。

ザッカーバーグに「語らせた」

 こうして話題を振りまいてきたディープフェイクは最近、さらに冗談では済まないような次元になってきている。

 まず英国のアーティストであるビル・ポスターが6月、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOのディープフェイクを公開した。イベント用につくったビデオだったようだが、ザッカーバーグの表情や口元をAIで自在に操作し、ディープフェイクのザッカーバーグに普通なら決して話さないような言葉を「語らせた」のである。「私たちはみんなをつなげたいのではない。みんなのデータを使ってあなたの動きを知りたい」といった具合だ。

 これが大きな話題になった。ディープフェイクの技術力だけでなく、その「偽物ビデオ」がもたらす脅威も議論された。

 また米国でもディープフェイクが物議を醸した。5月23日、米連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長がスピーチする映像が、ディープフェイクで改ざんされ、あたかも酔っぱらっているかのように見えるビデオとなり、SNSで拡散された。その偽物ビデオはすぐに250万回も再生され、大きな注目を浴びた(ちなみに、このビデオはちょっとした改変だったために「チープフェイク」と呼ばれている)。

 このニュースを重く見た米下院情報委員会は、FacebookやGoogle(YouTube)、Twitterなど大手ソーシャルメディア企業に対して、それぞれの企業がこのディープフェイクにどう対処するのかを報告するよう求めた。この動きは、20年の大統領選を視野に入れたもので、前回の大統領選でフェイクニュースが有権者の投票行動に作用したと批判されたことが背景にある。

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